「すっご〜い!」
 車を降りるなり、氷川は歓喜の声を上げた。
「ここがショッピングモールです」
 世良が説明すると、氷川は嬉しそうに辺りをきょろきょろと見回した。綺麗に整備された歩道、中央には緑が綺麗に植えられた花壇があり、それに沿っていくつもベンチが置かれていた。まっすぐなその道の両側には、たくさんの店が軒を連ねる。看板や店先の作りが多少異なる以外は、伊勢崎達の世界のショッピングモールとさほど違いは無かった。
「見て回りましょうよ!」
 嬉しそうにはしゃぐ氷川を先頭に、世良と伊勢崎が続いた。
「こっちは洋服屋さんね、こっちは雑貨かしら? 店の中に入って見てもいい?」
「はい、基本的に店員はいません。置いてあるのはサンプル品だけです」
「サンプル品だけ?」
 氷川が首をかしげた。
「はい、この世界では店にはサンプルしか置かれていません。商品は受注生産になります。欲しいものがあればその場で注文して、後から家に商品が届きます」
「急ぎのものはどうするの?」
「大抵その日のうちか、遅くても翌日には届きます。それにこの世界の人達は、それをすべて承知なので、よほどのことがないかぎり、すぐに無いと困るっていうものを買いに来る事は無いですね」
「それって、無駄な物を作らないって事?」
「そうです」
「だけどそれじゃあコストも掛かるし、商売にならないでしょ?」
「どうでしょうか? お二人の世界でいうような営利目的の会社は無いので、問題ないと思います。つまり民営ではないと言うか……」
「この世界の管理組織の支給品って事だろ?」
「まあ、そういうことですね」
 伊勢崎が代わりに言ったので、世良が頷いて見せた。氷川はそれを聞いて目を丸くしている。
「必要なものだけ作るから、在庫管理はしなくていいし、廃棄処理もいらないし、ある意味コスト削減かもな」
 伊勢崎は呟くようにそう言って、辺りの店を見回した。
「買い物客も少ないわね」
 氷川は辺りを見回しながら、ちょっと寂しそうに言った。パラパラとはいるが、盛況と言うほどの人ではない。
「まあそれは平日ですから……休みの日は、家族連れとか割といますよ。まあ元々この商業エリアを利用する住居エリアの人口比はそう多くないので、渋谷や新宿の人手を考えると、比べ物にならないほど閑散として見えるかもしれませんが……」
 世良が苦笑してみせたので、氷川は納得したように頷いた。
「それにみんな本当に必要なものしか買いに来ないんでしょうね。無駄遣いとかしなさそうだわ。家からネット通販みたいに買い物は出来ないの?」
「もちろん家から注文出来ます」
 世良の答えを聞いて、日川は首を傾げた。
「じゃあ、そもそもショッピングモールは必要ないんじゃない? わざわざ外出して買い物に来なくても、どうせその場で商品は貰えないんだし」
「無駄に見えるかもしれませんが、たぶんこうして店に買い物に出かけるという行為が、人としての生活に必要だと思われているんじゃないでしょうか? オレはそんな風に考えたことなかったけど、伊勢崎さん達の世界で暮らして、なんとなくそう感じました。あちらの世界だって通販出来るけど、やっぱり買い物に出かけるでしょう?」
 氷川はそれを聞いて納得したように頷いて笑った。
「ねえ、世良君、買い物の仕方ってどうするの? 私お金持ってないけど」
「我々は生活費を支給されていますから、買い物は出来るはずですよ。IDを貰いましたよね?」
 世良が尋ねたので、氷川は左手の手首につけているブレスレットのようなリングを掲げて見せた。一見、白いプラスチック製のように見えるが、特殊な樹脂のようで金属よりも硬いが、とても軽い素材で出来ていた。外から見た感じでは特に何か組み込まれているようには見えない。取り外しは自由に出来たが、部屋の電気や出入り口の操作など、いちいちこれが必要だったので、いつも身につけていた。
「店頭の操作パネルで注文をする際に、読み取り機にこれをタッチさせれば買い物できますよ」
 世良はそう言いながら、近くの店の中へと入っていったので、氷川もそれに続いた。伊勢崎は店の入り口に立ち中を覗いていた。
 世良が買い物をする手順を、実際の物を使って氷川に教えていた。氷川は楽しそうにそれを聞いている。それはとても平和な光景だった。伊勢崎はぼんやりとそれを遠めに見つめていた。
「ちょっとこれ、最新ファッション?! この服変よ〜! やだ〜! 私達と美的感覚が違うんじゃない?」
 氷川が飾ってある服を見てゲラゲラと笑っている。世良も釣られて楽しそうに笑っていた。そんな二人の笑顔を見るのも久しぶりだと思った。
 氷川はおおはしゃぎで、何件かの店を梯子して見て回っていた。実際に買い物はしていなかったが、置いてあるものがどれも珍しいようで、飽きる事が無いようだ。世良はそれについて回って、時々質問をされては答えていた。
「あら? ところで伊勢崎さんは?」
「え? あ、さっきまでそこの店で時計を見てたんですけど……」
 世良はそう言って辺りをキョロキョロと見回した。伊勢崎の姿が見えない。途端に不安そうな顔になったので、氷川はクスクスと小さく笑った。
「子供じゃないんだから大丈夫よ」
「そ……そうですね……」
「あ、ほら! あそこに居たわ! 伊勢崎さん!」
 氷川が伊勢崎の姿をみつけて手を振ると、伊勢崎がこちらへと向かってくるのが見えた。世良はあからさまにホッとした顔になったので、氷川はまたクスクスと笑った。
「世良! トイレが解らないんだけど」
「トイレですか?」
 戻ってくるなり伊勢崎がそう言ったので、世良は気の抜けたような顔になった。
「トイレなら……」
「ねえ、世良君。私、この調子でずーっとこの並びの店を全部見て回るつもりなの。だからここからいなくなる心配は無いから、二人は行きたいところあるなら好きにしてていいのよ? 別に私に付き合わなくても……っていうか、トイレはどうぞご自由に、そして迅速に」
 氷川が首を竦めて笑って見せたので、伊勢崎は「これは失礼」と笑って頭を下げた。
「じゃあ、とりあえず行ってきましょう」
 世良はそう言うと氷川と別れて、伊勢崎と共にトイレを探しに向かった。


「トイレのマークはこれなんですよ」
 案内図に描かれているマークを指して、世良が伊勢崎に説明した。
「そんなの知らねえもん」
 伊勢崎はそれを覗き込むようにしてみてから、眉間を寄せて口を尖らせたので、世良はハハッと笑った。
 案内図を見てから、一番近いトイレへと向かった。
「この世界の公衆トイレなんて初めてだからな」
「ここは綺麗ですよ」
「別にそんな心配してないし」
「なんか伊勢崎さんそういうの潔癖そうだから……向こうの世界に居た時、外出中でも公園のトイレとかは絶対使わないじゃないですか」
「ああいう所は、ホームレスのオヤジとかが居るから嫌なんだよ」
 こんな風に何気ない会話をするのは久しぶりだと思った。それは二人とも同じ気持ちだった。だがどちらも何もそれについては口にしなかった。
「あ、ほんと、綺麗……っつーか、なんかトイレっぽくないかも」
 中へと入って伊勢崎がそう言いながら辺りをキョロキョロと見回す。
「小便器だけって無いんだな……全部個室?」
「そうですね」
「つーか、お前も来いよ」
 入り口で立ち止まっている世良の手を伊勢崎がグイッと引っ張ったので、世良は驚いたと同時にハハハと笑った。
「オレは別に用は……」
「いいからっ!」
「伊勢崎さん!?」
 伊勢崎は世良の手を引っ張って、個室へ入ると扉を施錠した。綺麗に清掃された白い無機質のその狭い空間は、伊勢崎達の見慣れたトイレの個室とは少しばかり置かれているものが違うので、一見トイレという感覚が無かった。
「伊勢崎さん!?」
「シィッ」
 伊勢崎は困惑した様子の世良の唇に、人差し指を当ててそう制した。狭い空間は二人で満員だった。目の前に伊勢崎の顔がある。伊勢崎はニヤリと笑って見せた。
「久しぶりだな」
「え?」
「二人っきりになったのも、こんなに間近にお前の顔を見るのも」
 伊勢崎は小さな声で囁いた。
「伊勢崎さん」
「近くに居るのに……なんか最近完全に、お前不足だ」
 伊勢崎はそう囁いてから、チュッと世良の唇を吸った。
「そんなに時間ないからさ……さっさとやろうぜ」
 伊勢崎はそう囁いてもう一度世良に口付けながら、世良のズボンのファスナーを降ろして中へと手を差し入れた。世良はそれに驚いて目を丸くした。
「い、い、伊勢ざっ……」
「シィッ! 大きい声出すなよ」
 世良の鼻先で、伊勢崎が怒ったように囁いたので、世良は慌てて言葉を飲み込んだ。その間も伊勢崎の手が、世良のペニスを扱いている。
「だって……伊勢崎さん……こんな……いきなり……」
 世良は小さな声で、それでも困惑を隠せない様子で、しどろもどろになって言った。
「なに? お前、オレが欲しくないの?」
「そういう訳じゃ……でも……」
「じゃあグタグタ言うな」
 伊勢崎は蓋の閉まった便座の上にストンと腰を下ろすと、ズルリと外へ引き出した世良のペニスを口へと咥え込んだ。
「んっ!?」
 世良は思わず声が出そうになって、慌てて両手で口を押えた。真っ赤になって恐る恐る下を見下ろすと、伊勢崎が世良のペニスを咥えているのが見える。それはひどく厭らしい光景だった。たまらずむくむくと反応して、ペニスがみるみる勃起していった。
「んっんん……なんだよ、急にデカくしやがって……」
 伊勢崎は頬張りきれなくなって口を離した。世良のそれは相変わらずの巨根だった。半分ほど立ち上がったそれは、さっきよりもずっと長さも太さも増している。カリ高の大きな亀頭が伊勢崎の顔の方へと向いていた。
「やる気あるんじゃん」
 伊勢崎はクッと笑ってから、亀頭の先をペロリと舐めた。
「でもこんな所でなんて……」
 世良が赤い顔をしてまだ躊躇していた。
「家じゃあ出来ないだろ……ホテルにでも行くのか? 氷川さんになんて言うんだよ」
「でも……オレ、伊勢崎さんをこんな場所で抱くなんて……」
「だからそんなになってて、いつまでもぐたぐだ言うなよ。SEXなんてどこでだってやる事は一緒だよ」
「そういう言い方、嫌いです。なんか伊勢崎さんらしくない」
 伊勢崎はチッと舌打ちをしてから、再び世良のペニスを咥え込んだ。口いっぱいに頬張っても、半分も含む事は出来なかった。舌の先でカリの溝を愛撫しながら、鈴口を強く吸う。
「うっくっ」
 世良は顔を歪めてそれに耐えた。欲望に勝てるはずは無かった。どんなにがんばっても体は正直に反応する。薄目を開けて下を見ると、伊勢崎の厭らしい姿が目にはいる。世良のペニスを頬張り、音を立ててむしゃぶりついている。どんなAVよりも厭らしい姿だと思った。
 世良はハアハアと息を荒げながら、世良の頭を両手で包むようにして髪をくしゃくしゃに撫でた。世良のペニスはどんどん硬くなり、反りあがって亀頭を天へと向けていた。完全に勃起した世良のペニスはとても大きかった。伊勢崎は頬張るのを諦めて、その竿の部分を横から舌で筋に沿って舐めていく。伊勢崎の唾液と世良自身の先走りの汁で、ペニスはテラテラに濡れ光っていた。
 伊勢崎は世良への奉仕を続けながら、自身のズボンを降ろして自らのペニスも扱いていた。溜まっていた欲望が一気に湧き上がってくる。世良のペニスを咥え始めた時から、伊勢崎のペニスは完全に勃起してしまっていた。自分でもなぜこんなに欲情して体を熱くしているのか解らなかった。
 最初から世良とこんな場所でSEXをするつもりではなかった。だが何かに突き動かされていた。自分自身への焦り、世良との間の距離、二人のぎこちなくなってしまった関係。氷川に言われたからというわけではないが、いつの間に世良とこんな余所余所しい関係になってしまったのだろうとハッとなった。
 この世界に来る前まで、あんなに求め合っていたのに、今はもう随分触れる事さえ忘れてしまっていた。
 触れ合えば元に戻れるような気がした。ただキスをしたくなっただけだった。世良の唇に触れて、その体に触れる事が出来れば、それでまた元に戻れると思った。
 だが触れてしまったら、もう止まらなくなっていた。世良の総てが欲しいと言う貪欲な思いが、体の奥から沸いてきた。キスをしただけで体が熱くなって、あっという間に勃起してしまっていた。世良のペニスを触りたくなった。そしてめちゃくちゃに抱かれたいと思った。
 それはひどく衝動的で、単純なほどに淫猥な欲望だった。
「伊勢崎さん」
 世良がせつない声で伊勢崎を呼んだ。手が伸びてきて、伊勢崎の肩を掴むと上へと引き上げられた。立ち上がり目の前にある熱く潤んだ世良の瞳を見つめる。伊勢崎のその瞳も潤んでいた。世良は伊勢崎を強く抱きしめ、それから唇を重ねてきた。深く吸われて、舌を絡められた。
 久しぶりの熱い口付けだった。伊勢崎も夢中で求めるように舌を絡め返す。息をするのさえ忘れるほどむさぼるように口付けた。
 背中を抱きしめている世良の腕が、強くて熱くて嬉しかった。伊勢崎も世良の背中へと手を回す。
 世良も手が伊勢崎の背中を優しく撫でて、腰へと降りると、両の掌で尻の肉を包むように掴んだ。指が窪みへと伸びてくる。それから先の快楽を期待して、伊勢崎の体の奥がざわざわと疼いた。
「あっああっ」
 指の腹でキュッと絞まっている穴の入り口を撫でられて、思わず伊勢崎が声を洩らした。その自分の声にハッとなり、伊勢崎はキュッと唇を噛む。
 世良は自分の指を口に咥えてたっぷりと唾液をつけてから、再び世良のアナルを攻め立てた。ゆっくりと指が中へと入ってくると、伊勢崎の体がぶるっと小さく震えた。無意識に体の力が抜けて、もっと奥へと誘うように体が開かれる。
 ぬちぬちと音を立てて指を動かしながら、その小さな口を解していく。指は2本3本と増やされていった。その間も世良は伊勢崎の唇を求め、息を荒げながら夢中で舌を絡めあう。
「世良……もう……もういいから……入れてくれ」
 キスの合間に、伊勢崎が熱い吐息と共にそう囁いた。
「でもまだ解さないと」
「いいから……早くしろ……人が来る」
 伊勢崎はそう言って、世良から体を離すと、世良に背を向けるようにして体の向きを変え、壁に手を付いて尻を突き出した。
「伊勢崎さんっ」
 世良はごくりと唾を飲み込んだ。いつもと違う伊勢崎にも、人が来るかもしれないという公衆の場所というのにも、狭い空間というのにも、すべてにおいて、感覚を麻痺させてケダモノへとならざるを得ない状況にあった。ここで断る術は待たない。
 世良は伊勢崎の腰を両手で掴むと、その中心へと昂ぶる肉塊を突き立てた。ググッと抵抗があり、亀頭の先が肉を開いてゆっくりと入っていく。
「うっんっ……んんっ……」
 伊勢崎は声を上げそうになるのを堪えるように、自分の肩口に口元を押し付けて服を強く噛んだ
 世良の熱く太い塊が、肉を割って中へと入ってくるのを感じた。ゆっくりゆっくり世良は腰を押し付けるようにして、伊勢崎の中へと挿入させた。根元まですべて埋まると、ハアハアと世良は激しく息を吐いた。
「い……伊勢崎さんっ……オレ……なんかもう……もたなさそうです」
 世良が苦しげに顔を歪めながら、頬を高揚させて肩で息をしている。久しぶりの伊勢崎の中はひどく狭くて熱かった。挿入されている世良のペニスを肉壁が包み込み収縮して扱かれているようだった。今にも射精してしまいそうだ。グッと歯を食いしばって、ギリギリで我慢しているという所だ。
「は……早いんじゃないか?」
 伊勢崎がクッと笑った。だが伊勢崎自身もかなり限界に近かった。下腹を押し上げていっぱいになっている世良の大きなペニスは、ひどく熱くてその脈打つ動きさえも感じるほどだった。内壁を擦られて、ぞわぞわと痺れるような快楽の波が押し上げてくる。
 伊勢崎のペニスの先からは、すでに白濁した汁がダラダラと勢い無く、だが止まることなく垂れ出ている。硬質の便座の蓋の上に、液溜まりを作っていた。
「動かしても……いいですか?」
「んっ……ふうっ……いいけど……すぐに……いっちゃうんだろ?」
「はい……いきそうです」
「バカ」
 伊勢崎はクッと笑ってから、ハアハアと息を吐いた。世良は伊勢崎の腰を抱きながら、ガクガクと前後に腰を動かして揺さぶった。
「あっあっ……うっ……んんんっ」
 伊勢崎は声が漏れないように、慌てて肩口の服を噛んだ。体がゆさゆさと揺すられる。体の中にいっぱい納まっていた世良の熱い肉塊が、内壁を擦りながら前後に動くのを感じた。カリが肉を抉るように壁を掻く。その度にビリビリと電気が走るように体が痺れて、伊勢崎は立っていられなくなり膝を折る。世良に腰を抱えられて、辛うじてその場に崩れる事は無かった。
「うっうっうっうっ……くっううっ」
 ブルルッと世良の腰が震えた。弾けるようにドクンと熱いものが中に放たれた。くぷっと結合部分の隙間から溢れ出した精液が、伊勢崎の内腿へと伝って流れる。世良はビクビクと何度も腰を痙攣させるようにして伊勢崎の中へと射精した。伊勢崎も一緒に絶頂を迎えていた。床に白い飛沫が飛び散る。
 世良はゆっくりと伊勢崎の中からペニスを引き抜くと、伊勢崎の体を抱き起こして抱きしめた。ハアハアと互いにまだ息が荒かった。伊勢崎も世良の背中に手を回して抱きしめた。早くなっている鼓動が聞こえる。伊勢崎は目を閉じて、ジッとそれを聞いていた。
 ゆっくりと熱が冷めていき、息も次第に落ち着いてくる。狭い空間には、互いの雄の匂いだけが残っていた。
「……ここの掃除はお前がしろよ」
 伊勢崎が耳元で囁くと、世良はクッと口元を上げて「はい」と小さく答えた。


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