ベッドに横たえられたウェイライは、青白い顔をしていて生気が無かった。時々心配になって、息をしているかどうか口元に耳を寄せる。かすかではあるが弱々しい息遣いを確認するとホッと安堵する。
 フォンルゥはずっとベッドの傍らに寄り添い、ウェイライの左手を両手で包むように握り締めていた。まるですがりつくような姿に見える。そのフォンルゥの左手は、不気味なほどの太く鋭く長い黒い爪を生やした人の手とは思えないような奇怪な形をしていた。その爪でウェイライの手を傷つけないようにそっと左手は添えるだけだ。だがその手を隠すような余裕は無いらしい。
 ラウシャンは、その様子を少し離れた壁際に腕組みをして、背中を寄りかからせながら、ジッと見守っていた。今はただそうするしかない。
 この国に辿り着いて、真っ直ぐにウェイライの気を辿って彼らの元に辿り着いた。ウェイライは意識を失って倒れていて、その体を背中に竜の翼を生やした奇妙な姿の男が抱いていた。悲痛な顔をして、ラウシャンに助けを求めるような瞳をしていた。
 同属同志は通じ合う。何も問いたださなくても、彼が同じシーフォンであるという事はすぐに分かった。見たことも無い顔で、見たことも無いような姿をしていたが、敢えてそれを問いたださなかった。
 ただ保護されているはずのゼーマンにて、ウェイライが何故そのような目に合わされているのか……それだけを問いただしたく、城へと二人を連れて戻り、王に接見した。1年半ぶりに見るアーバイン王は、ひどくその姿を変貌させていた。彼はラウシャンの姿を見るなり、恐怖に怯えた表情になり、玉座から転がり落ちるように床に這い蹲り、平伏して見せた。そしてただ「お許し下さい」の言葉を100ほども繰り返すのみであった。
 ラウシャンは詳細を問いただすことは諦め、ゼーマンの兵を借りてウェイライの石の卵の捜索をさせた。今はそれの結果待ちの状態だ。
 ウェイライが行方不明になって2ヶ月あまり……ラウシャンは手を尽くして彼の行方を捜していた。だがいくら竜の力を持ってしても、世界のどこへ去ったか手がかり一つ無い中での捜索は困難を極めた。ウェイライには竜がいない。人間とは異なる容姿のその髪を隠してしまえば、人間の中にもぐりこむことは容易だ。
 それでもそう遠くへは行っていないだろうと思っていた。だがようやくみつけた手がかりの端は『人買いに売られた者の中にそのような者がいたらしい』という程度のことだった。西の大陸にはまだ野蛮な民族が多く住む。混沌としたその世界は同じ人間同士とて、そう用意に関与することが出来ないものだった。そこから先の手がかりを失い、もうダメだろうと諦め始めていた頃だった。
 だがウェイライは生きていた。いまはこのような姿になっているが、卵を失くしてこのような事になっている以外では、その見た目にはそれ程変化は見られない。体の傷も、やせ細ったような様子もなかった。この行方不明になっていた間、それなりに無事で居た証に違いない。それはきっとこの傍らに寄り添う男のお陰に違いないことは確かだと思えた。
 その時扉が叩かれた。ラウシャンが返事をすると、扉が開き藍色の髪の男が入ってきた。
「みつけました!」
 彼は嬉しそうにラウシャンに向かって、丸い石を掲げて見せたので、ラウシャンは頷いた。彼はそのままウェイライの元に走り寄ると、一瞬フォンルゥの存在に躊躇を見せつつも、ウェイライの胸元にそっと石を置いた。
 ラウシャン達は固唾を飲んでしばらく見守っていた。すると青白い顔が次第に血色を戻していった。白い顔にほんのりと赤みが差す。ウェイライの胸が大きく上下して、ハアと深く息継ぎをした。
「ウェイライ」
 フォンルゥが名前を呼んでギュッと手を握ると、ウェイライはゆっくりと目を開いた。しばらくぼんやりと宙をみつめてから、ゆっくりと視線を動かしてフォンルゥを見た。
「フォンルゥ……」
 その姿を確認すると、ホッと安心したように表情を緩める。その様子をラウシャンは、相変わらず離れたところから見守っていた。
「ウェイライ」
 別の声がして、ウェイライが驚いたように視線を動かし、反対側に立つ藍色の髪の男を見た。
「ホ……ホンウェイ兄様!」
「ウェイライ! 良かった……心配していたのだぞ」
「兄様……」
「まあとにかく無事で何よりだった……体が回復するまでもうしばらく休んでいろ」
 そこでようやく声をかけたラウシャンに、ウェイライは驚いて少し頭を持ち上げると、壁際に立つラウシャンの姿を見て、大きく目を見開いた。
「ラウシャン様!」
「くわしい話は後だ」

 夜にはすっかりウェイライも回復していた。ラウシャン達に今までの事をすべて話した。このゼーマンで起きた出来事も……。
「明日、王とはもう一度話をするつもりだ。今後の処遇については、一度国に戻って陛下に伺ってからになるだろう」
「……私はこの通り、もう大丈夫なのですから……あまり大事にはしていただきたくありません。明日王の話を聞いていただいて……ラウシャン様にはよきに計らっていただきたく願います」
 ウェイライが深々と頭を下げると、ラウシャンがその頭をクシャクシャと撫でた。
「お前はもう寝ろ……明日の午後にはエルマーンへ戻るぞ。体を完全に元に戻しておけ」
「は……はい」
 ウェイライは、兄のホンウェイに付き添われて、部屋へと戻っていった。残ったのはフォンルゥとラウシャンとラウシャンの部下の一人である歳若いシュウリンの3人のみとなったが、ラウシャンがシュウリンに席を外すように言ったので、シュウリンは用意されている別室へと下がった。
 二人だけになって、フォンルゥは気まずいような顔をして窓の遠くを見ていた。
「酒は飲むのか?」
 ラウシャンが声をかけると、フォンルゥはようやく視線をラウシャンへと向けて静かに首を振った。ラウシャンは「そうか」と小さく呟いて、自分のグラスにだけ酒を注いだ。
「聞きたい事があるのだろう? 二人になるという事は」
 フォンルゥがそう言うと、ラウシャンは黙ったままで酒を一口飲んだ。
「オレの奇妙なこの体のことか?」
「いや……そんな事は別にどうでもいい」
 ラウシャンがそう答えたので、フォンルゥは少し驚いたような顔をした。
「が……どうやらお前は、その体を忌み嫌っているようだな」
「……当たり前だ。こんな化け物のような姿」
「フォンルゥ……だったな。お前は人間の中で生きてきたからそう思うのかもしれないが……我々シーフォンという生き物自体が、すでに人間から見れば『化け物』そのものなのだよ。だから今回のような事件が起こる……我々の存在を、理解してもらうのは難しいことだ。だから我々は高い山脈に囲まれた我が国の中で、静かに暮らしているのだ」
 ラウシャンは静かにそう語った。フォンルゥはそんなラウシャンをジッとみつめた。
「貴方はオレの羽が生えた姿を見ても驚かなかったな? だがオレみたいなのは、シーフォンでも奇形なのだろう?」
「……確かに……そんな姿は見たこと無いな。体にも鱗はあるのか?」
「見るか? 左半身は鱗で覆われている」
「いや、別に見せなくてもいい、男の裸を見る趣味は無い」
 ラウシャンはそう言ってニヤリと笑ってみせると、また酒を一口飲んだ。フォンルゥはこのラウシャンという男が掴みきれずに、どう接していいのか戸惑っていた。からかわれているのか? とも思う。
「お前から見て、私はまともに見えるか?」
「? どういうことだ?」
 ラウシャンの問い掛けの意味が分からずに、フォンルゥは眉間を寄せて首を傾げた。
「私だって、シーフォンの中では変わり者の奇形だという事だ。一見普通に見えるだろうが……私はそうだな……こう見えてもお前の祖父よりも年寄りだよ」
「は?」
「シーフォンという生き物は長寿だ。人間の5倍は長く生きる。だが私はそのシーフォンの更に倍生きている……歳を取るのが異常に遅くてね……奇形だ変わり者だと、奇異の目で見られ続けている……が、こう何百年も生きていると、そういうものにもすっかり慣れてしまっている」
 ラウシャンはそう言ってフフッと笑って見せた。フォンルゥはポカンとした顔をしていた。
「それに長く生きていると色んなものを見る……お前のような奇形ははじめてだが、最近生まれるシーフォンの中には、何人も奇形が居た。ウェイライもその一人だ。これは滅び行く種族にとって、逃れられない運命なのだろう……だがな、だからと言っておかしな者などは一人も居ないのだそうだ……みんな大切なシーフォンの民なのだと……リューセー様がそうおっしゃる。お前もエルマーンに戻って、リューセー様にその姿を見ていただければ良いだろう。その姿を一番憎んでいるのは、おまえ自身なのだから……きっとそれはリューセー様がすべて解決してくださる」
「リューセー様……?」
「ああそうだ。我らの聖人……リューセー様だ」


 翌日、ラウシャンが王と再び接見をした。王は昨日よりも更に血色をなくした面容をしていたが、もう狼狽はしていなかった。
「ラウシャン様……昨夜、ファウスが自害致しました。すべての責任を負うとの遺書が残されていました」
 王がそう言って、側近を介してファウスの遺書をラウシャンに渡した。ラウシャンは遺書に目を通すと、渋い顔をして小さく溜息を吐いた。
「これはフェイワン王にお見せいたしましょう……アーバイン王よ、私が言えることは、何事も運命には逆らわず、早まるような考えは持たれない様にという事だけです」
「はい」
「王子の身をお借りするがよろしいか?」
「え?」
「病に伏している王子を、エルマーンに連れて行き、シーフォンの医師に見せましょう。助かるかどうかは、私には分からない……それは王子が持つ運に頼るしかないでしょう。シーフォンの医師に治せぬ病であれば、もうこの世で助かる道は無い。その時はそれが定めと諦められよ。そして王子の身を我らに委ねる事が、懺悔の証とされよ」
「ははー……」
 王は崩れるように床にひれ伏した。
「王子が戻る国があるように、それまでがんばられることだな」
 ラウシャンはそう言い残して王の下を去った。


 午後、急遽として作られた馬車を利用した王子の寝台篭をホンウェイの竜が運び、ウェイライとフォンルゥはラウシャンの竜に乗って、一向はゼーマンを後にした。


「ほら、フォンルゥ! あれがエルマーンだよ」
 竜の背に立ち、ウェイライが眼下を指差した。赤く険しい山脈に囲まれた大きな国がそこにあった。初めて見る不思議な光景であった。器状に丸く周囲を高く険しい岩山でグルリと囲み、その中央は緑豊かな地と、たくさんの集落や町の点在する国家があった。城の姿が見えぬと思っていたら、岩山の内壁に、不思議な形の城があった。
 ラウシャン達の竜が上空に近づくと、下から次々にたくさんの竜が舞い上がってくる。その光景も不思議だった。
 ラウシャン達の竜は、ゆっくりと旋回しながら下降して行き、やがて城郭の一角に舞い降りた。そこにはたくさんの兵士が待っていた。身を硬くするフォンルゥの腕に、ウェイライがそっと手を添えた。
「行こう」

 ラウシャンとはそこで別れて、二人は城の中の一室へと連れて行かれた。しばらくそこで待たされている間、フォンルゥはずっと硬い表情で俯いていた。それをウェイライが心配そうな顔でみつめていた。
「フォンルゥ……大丈夫だよ。陛下はとても寛容な方だし、リューセー様はとてもお優しい方だから」
 宥めるようにそう言ったが、フォンルゥは黙ったままで居た。その時扉が叩かれて、二人はビクリとなる。扉が開きホンウェイが入ってきた。ウェイライを手招きするのでウェイライが駆け寄ると、二人で何かしばらく話を始めた。フォンルゥは硬い表情のままで、そちらの方は見なかった。
 まだ自分の置かれた立場を信じられないで居た。ずっと国に帰ってはならない、帰ったら殺されると言われて育てられてきた。ウェイライと出会って、シーフォンに対する憎しみは和らいだが、この国のことを信じたわけではない。
 今まで長い間傭兵として生きてきて『国』というものがどういうものか、身を持って知らされてきた。国民一人一人がどんなに良い人間が居たところで、その『国』という力、成り立ちには抗えない物がある。王もまたそのひとつだ。
 あのゼーマン国とてそうであったではないかと思う。
 ウェイライやラウシャンという人物に触れて、好感をもてたからといって、この国を信じられるほど容易い感情ではなかった。
 手を握られてハッとなり顔を上げた。側に跪いて覗き込んでいるウェイライが居た。もうホンウェイの姿は無い。
「フォンルゥ……オレはこれから両親に会いに戻らなければならないんだ。そして身支度をしてから、陛下に謁見を賜る。フォンルゥも一緒にだけど、オレが両親に会いにいく間に、フォンルゥも身支度をするように言われたんだ。こんな格好では陛下に会えないからね……少しの間離れてしまうけど……大丈夫だよね?」
 ウェイライが心配そうな顔でそう言った。
「ウェイライ」
 フォンルゥが不安そうな顔になる。ウェイライはギュッとフォンルゥの手を握ると、背伸びをして唇を重ねた。
「大丈夫だよ。心配しないで……ここはフォンルゥの祖国なんだから……信じて」
 唇を離して、顔を近づけたままでそう囁いた。フォンルゥからもキスをする。
「ああ」
 ウェイライからもう一度キスをした。今度は少し深いキス。
「ねえフォンルゥ……絶対大丈夫、でもね、もしももしも……もしもフォンルゥに何かあったら、今度はオレが命をかけてフォンルゥを助けるから……だからオレを信じて」
「ああ、大丈夫だ」
 フォンルゥがそう言って、少し笑みを作って見せると、ウェイライは安心したような顔になった。もう一度キスをしてから、ウェイライは立ち上がった。
「じゃあ、あとでね」
 手を振って立ち去るウェイライをジッとみつめていた。
 フォンルゥはウェイライだけを信じようと思った。この国が信じられなくても、ウェイライだけを信じていればいい。もしも捕らえられて、殺されることになったとしても、ウェイライだけは信じられる。ウェイライだけはきっと最後の最後まで、本当に自分のことを愛してくれたのだと……そう思えば、きっとすべての宿命を受け入れられる気がした。どんな最後になろうとも……。
 しばらくして侍女が二人入って来て、着替えの服と水瓶を持ってきた。
「これで体を拭いていただいてから、この服に着替えていただきます」
「自分でやるから、下がってもらえるだろうか?」
「ですが……」
「オレは体に奇形があって……あまり人に見られたくないんだ。頼む」
 侍女達は顔を見合わせて、しばらく困ったような顔をしていたが、フォンルゥにペコリと頭を下げると部屋を出て行った。侍女達が部屋を出る時、あまりに早いので不思議に思った兵士が中を覗いてきたが、侍女達が説明をすると扉が閉められた。
 フォンルゥは小さく溜息を吐いてから、服を着替え始めた。


 兵士4人に連れられて、長い廊下を歩いた。岩山をくりぬいて作られているらしいこの不思議な城の中は、ひんやりと空気が冷えていた。歩く石造りの廊下は、鏡のように磨かれている。この国の衣装を見につけている自分がどこか不思議だったが、意外としっくりとしているような気がした。
 まるで刑場に連れて行かれるような気持ちで歩いていたが、不思議と心は穏やかだった。やがて廊下の突き当たりの大きな扉の前まで来ると、そこには緑の髪の凛々しい男が一人で出迎えるように立っていた。
「フォンルゥ、はじめまして。オレはタンレン……この国の国内警備の長を任されている。この扉の先は王宮となる為、私が先導する」
 彼の挨拶に、フォンルゥは丁重に頭を下げて答えた。
 扉が重々しく開かれて、その先に続く廊下へと、タンレンが先導して歩き始めた。先ほどまでの廊下とはまた少し趣の違う廊下であった。白い大理石が床に敷かれている。そこもまた鏡のように磨かれていた。
 しばらく歩いていると、前方にウェイライの姿をみつけて安堵した。ウェイライもフォンルゥに気づき笑顔を向けているが、タンレンに気づいて深く頭を下げた。よほどこのタンレンという男は、位が上の者なのだろうと思った。
 ウェイライの待つところまで辿り着くと、タンレンが足を止めた。
「この扉の向こうが謁見の間だ。陛下にお目通り頂く、心するように」
 タンレンがそう言うと、兵士がゆっくりと扉を開いた。広い広い謁見の間を、タンレンに連れられて、フォンルゥとウェイライは王の下へと進んだ。中央まで来た所で、跪くように指示されそれに従うと、タンレンは脇へと去った。
「陛下、ウェイライ、フォンルゥが参りました」
 浪々とした声でそう告げたのはラウシャンだった。王の玉座のすぐ下に立っている。フォンルゥはチラリと見てからすぐに頭を下げた。
「ウェイライ、フォンルゥ、礼はいい、顔を見せてくれ」
 若々しい凛とした声だった。顔を上げて王を見て驚いた。自分と変わらないほどの若い姿をした王だった。目に眩いほどの真紅の豊かな長い髪が印象的だ。乳母だったアルピン達が何度も言い聞かせてくれた言葉を思い出す。シーフォンの竜王は、その王たる証の真紅の髪を持っている。代わりのものなど居ない。この世にただ一人。その赤い髪が王の印……と。
「ウェイライ、元気そうだな。皆心配していたぞ」
「はっ……はい、ありがとうございます」
「そのほうが、フォンルゥか……モオションとカリエンの子だな……死んだと聞かされていたが、生きていてくれて良かった。本当に良かった」
 王がそう言って笑ったので、フォンルゥは驚いた。言葉も出なかった。
「苦労したでしょう? よく帰ってきてくれたね」
 優しい声がした。隣に座る黒い髪の者……それがリューセーかと、フォンルゥは驚いてみた。男だ……と、思う。だがとても繊細で優しげな姿をしていた。中性的というか、あまり男を感じさせないものがある。
「話はラウシャンから聞いた。とにかく二人の顔を早く見たくて呼んだが、国に戻ったばかりだ。しばらくはゆっくりと休むといい……フォンルゥ、お前の部屋は城の中に用意させたのだが、ウェイライの両親が、ぜひ家へ招きたいと言っている……どうするか?」
 フェイワンの言葉に、フォンルゥは驚いてウェイライを見た。ウェイライがニコニコと笑って頷く。
「では……お招きに預かりたいと思います」
「ああ、そうするといい。残念ながらお前の両親はすでに他界しており、近しい親類がいない……しばらくはウェイライの所に滞在して、シーフォンの暮らしに馴染むほうがいいだろう。お前の今後や家の再興などの難しい話は、もう少し落ち着いてからにしよう」
「は……はい」
 フォンルゥは慌てて頭を下げた。
「ねえ、フォンルゥ……他国のこととか、これまでの冒険の話とか、色々聞きたいから、ぜひ遊びにおいでよね」
「は?」
「リューセー様!」
「リューセー! ほら見ろ、フォンルゥが驚いているじゃないか」
「え? 別に良いだろう? 話を聞きたいじゃないか」
 フェイワンとラウシャンに咎められて、龍聖がプウと頬を膨らませると、脇で見守っていたタンレンがクククククッと笑い出したので、フォンルゥは更にキョトンとした顔になった。
「まあいい、とにかく二人とも無事でなによりだった。下がっていい。しばらくは養生しなさい……気が向いたら、リューセーの話し相手をしてやってくれ」
「はい」
 二人は床に着くほど深々と頭を下げた。
 フォンルゥにとっては、信じられないほど気の抜けるような謁見だった。タンレンに連れられて、謁見の間を後にしながら、そっと一度振り返ると、笑顔のフェイワンと龍聖の姿があった。


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