ウェイライは大きく目を見開いて、何度も何度も瞬きをした。だが目の前に見えるのは……その表現を『目の前』という言い方で正しいのかどうかさえも分からないほどの至近距離に見えるのは、フォンルゥの顔……いやもっと正確に言えば、閉じられたフォンルゥの瞼と頬、緑の髪……なのだがそれも近すぎて、ハッキリとは見えないくらいだ。
 こんなに近くにフォンルゥの顔が見える状態というのは普通ではない。それは唇に与えられるその感覚が、普通ではない自分に置かれた状態を確認させる。
 押し付けられたフォンルゥの唇が動き、ウェイライの唇をチュウと吸ったので、ウェイライはビクリとなりキュッと両目を強く閉じた。これはまぎれもなく『キス』だ。フォンルゥが自分にキスをしている。ようやくそう確認して、ウェイライはフォンルゥの両肩口を掴んでいた手に力を入れてしがみついた。
 するとそれを合図にするようにフォンルゥの腕が強くウェイライを抱きしめる。フォンルゥの唇がウェイライの唇を愛撫するように動き、貪るように吸ってくる。ウェイライは身を震わせながらそれに答えるようにぎこちなくも唇を開いて答えた。その隙間にフォンルゥの舌が滑り込んできて、ウェイライの口内を愛撫する。舌が絡め取られる。
「んっ……ふっ……」
 それは熱い嵐のような口付けだった。ウェイライの知らない口付けだ。体中が熱くなる。背筋がビリビリと痺れるような感覚がして立っていられなくなりそうだ。ウェイライは肩口を掴んでいた手を、フォンルゥの背中へと回して抱きついた。
 熱くて苦しくて、でももっともっととフォンルゥの口付けを求めていた。重なる唇の隙間から時折苦しげに息を吐く。心臓が激しく鼓動を叩き、全身の血が逆流しているかのようで、ハアハアと息が乱れて胸が上下する。重なるフォンルゥの逞しい胸も熱かった。
 クチュクチュと舌と唇が動くたびに、唾液の交わる厭らしい音がする。それにも興奮して体が熱くなった。
 ウェイライもフォンルゥも、何かに突き動かされるように夢中で抱き合いキスをしていた。どれくらいの時間そうしていたのかわからない。ただどちらからともなく唇を離して、少し顔を離してみつめあった。
 ウェイライが潤んだ瞳で、まっすぐにフォンルゥの緑の瞳をみつめた。
 フォンルゥがそっとウェイライの濡れた口元を指で拭った。そして髪を撫でると、ウェイライは目を閉じて身を任せた。
「すまない」
 フォンルゥが小さく呟くように一言言った。ウェイライは目を閉じたまま何も答えなかった。
「衝動的に……こんなことをしてしまった……」
 フォンルゥが言い訳をするようにもう一度呟いた。するとウェイライはゆっくりと目を開けて、またまっすぐにフォンルゥをみつめた。
「それは……後悔しているの?」
 ウェイライがひどく穏やかな口調で言ったので、フォンルゥは「え?」というように眉を寄せてウェイライをみつめた。
「オレにキスをした事を後悔しているの?」
 ウェイライがもう一度尋ねた。
「馬鹿な……後悔など……後悔などしていない」
「良かった」
 ウェイライは微笑んで心からそういうと、ゆっくりとフォンルゥの胸に顔を埋めて、背に回した手に力を入れて抱きついた。
「ウェイライ」
「好き……好き。フォンルゥ……貴方が好き……好き」
「ウェイライ……怒っていないのか?」
「なぜ?」
「こんなことをされて……」
「嫌なら、貴方の背にこうして腕を回したりしない……こんなに体が熱くなることはないよ……ずっとずっと……フォンルゥにこうされたいと思ってた。そんなオレの方が気持ち悪いと思われるかもと思ってた」
「ウェイライ」
「オレが……あんまり貴方のことを好きだと思うから……迷惑に思われているんじゃないかと思ってた。きっとこの好きって気持ちが、友人としてのそれではないってことを気づかれてしまって……気持ち悪いって思われているんじゃないかって……船に乗っているときからずっとそう思っていて……」
「ウェイライ……オレは……よく分からないんだ。ただどう言っていいか分から無いんだが……お前を抱きしめたくて……キスしたのも込み上がる衝動が止められなくて……」
 フォンルゥはウェイライを強く抱きしめた。
「こんな気持ちは初めてなんだ」
 フォンルゥは小さく呟いた。その言葉はウェイライの耳にもちゃんと届いていた。ウェイライは目を閉じて、フォンルゥの胸にスリスリと顔を摺り寄せた。
「フォンルゥの心臓がすごくドキドキ言ってる……オレと同じくらいすごくドキドキ早く鳴ってる……今、オレと同じ気持ちって事だよね……嬉しい……」
「ウェイライ」
 腕の中のウェイライを強く抱きしめて壊してしまいそうだと思った。それくらいに高まる気持ちを抑えられない。体の中に渦巻く炎があると思った。こんなに激しい衝動に心が乱されるのは初めてだった。体が燃えるように熱い。きっと自分が獣であれば、ウェイライを喰いちぎってしまうだろうと思った。
『これが愛しいという気持ちなのだろうか……』
 そう思いながらウェイライの頭に唇を落とした。頭に口付けて、耳に口付けた。するとウェイライが「はぁ」と甘い吐息を吐いた。もう一度耳に口付けると、ゆっくりとウェイライが顔を動かして、フォンルゥの唇を求めてきたので唇を重ねあった。
 最初は軽く啄ばんだ。フォンルゥがウェイライの唇をチュッと吸うと、それに答えるようにウェイライもチュッと返した。何度かそれを繰りかえし、やがてフォンルゥがウェイライの唇を食むように深く吸うと、唇が離れる刹那にウェイライがその唇を追いかけるようにして再び唇を重ねた。
 互いに夢中で求め合うような口付けを交わした。離れることを惜しむように、舌を絡めあい唇を愛撫した。二人とも息を乱していた。口付けの合間にハアハアと混ざり合う息遣いも熱い。それでももっとと求め合う。
 すがりつくように体を寄せてくるウェイライを強く抱きしめる。すりすりとフォンルゥの太腿にウェイライが腰を押し付けてきていた。それがゴリゴリと熱い塊であることにフォンルゥは気がついた。
 フォンルゥは両手でウェイライの尻を掴むと、グイッとウェイライの腰を自分の太腿に押し付けた。
「あっ……んっんっんっ」
 ウェイライの尻はひどく柔らかく感じた。双丘の塊を両手で片方ずつ掴み揉みながら、揺するようにしてウェイライの昂ぶりを自分の太腿にグイグイと押し付けてやった。その度にウェイライが喉を鳴らしてハアハアと息を乱す。
 貪るような口付けは辞めなかった。
「んんんんっ……んー―っっ」
 ウェイライがビクリと体を震わせて、ぎゅうとしがみついてきた。ウェイライの腰が小刻みに痙攣している。口付けを辞めて顔を離してみると、ウェイライが顔を上気させてハアハアと息を乱しながら瞳を潤ませていた。
「フォンルゥ……フォンルゥ……」
 今にも泣き出しそうな顔で、何度も名前を呼んでいた。フォンルゥはその体をヒョイと抱き上げると、そのままベッドへと運んだ。そっと下ろして横たえると、ウェイライのズボンに手を掛けた。
「あっ……やぁ……ダメ……」
 ウェイライが身をよじってそれに抵抗するように、フォンルゥの手首を握ったが、フォンルゥはウェイライのズボンの紐を解いてズルリと下に下げた。少しばかり頭を持ち上げて、ひくひくと動いているウェイライのペニスが露になった。ペニスもその付け根を覆う髪と同じ色の陰毛も内股もすべてが、白い精液まみれになっていた。むぅっと雄の匂いがする。
 その匂いを嗅いでその状態を見て、ズクンと股間に痛みが走り、自らも同じように興奮して勃起していることをフォンルゥは自覚した。右手でグッと自分の股間をズボンの布越しに掴んだ。掌の中に熱く脈打つそれを感じてゾクリとなった。
「フォンルゥ……見ないで……ごめんね……汚らしくて……ごめんね」
 ウェイライは両手で顔を覆った。羞恥と後悔で涙が溢れる。いやらしい自分を恥じていた。フォンルゥはそんなウェイライをジッとみつめてから、そっと下ろしかけていたウェイライのズボンを更に下げてすべて取り去ってしまった。長く白い両足が露になる。ほどよく薄く付いた筋肉で引き締まった綺麗な足だとフォンルゥは思った。傷も痣も何も無い綺麗な脚だった。
 フォンルゥはベッドに手を付いて、ギシリと軋ませながら体を屈める。ウェイライの膝頭に口付けた。ピクリとウェイライの体が反応する。膝頭から内腿へと唇を滑らせていった。
「あっ……フォンルゥ……ダメ……フォンルゥ」
 内腿の途中の精液で濡れている部分を、舌で舐め上げる。ウェイライがビクンと体を反応させて身を捩じらせた。足を閉じようとするのを、肩で間を割って体を股の間に埋めた。少しずつ目の前で頭を持ち上げていくウェイライのペニスの先に口付けると、「んっ」とウェイライが声をあげそうになって両手で口を押さえ込んだ。フォンルゥはそのままペニスを口に含んだ。
 喉の奥に着くほどに深く咥え込んでから、舌でペニスの裏側を愛撫して頬を窄めてキュッと吸い上げると、ウェイライの腰が跳ねた。内腿がヒクヒクと痙攣している。
「あっああっ」
 ウェイライが堪らず喘ぎ声を上げる。フォンルゥの口の中でみるみると硬さを増していった。トロリと先走りの汁が鈴口から溢れ出るのを、ジュジュッと吸い上げる。鼻の奥にウェイライの匂いを感じた。ひどく興奮する。フォンルゥはその行為を続けながら、ズボンの布越しに掴んでいる自分のペニスを扱いた。ジワリと布にシミが出来る。
 頭を上下させながらウェイライのペニスを唇と舌で愛撫すると、ウェイライは喘ぎ声を上げながら身をよじる。ハアハアと荒く息を吐きながら、漏れる声を抑えることが出来なくて、ウェイライは恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった、だが押し寄せる快楽の波に抗うことは出来ない。両手はギュッとシーツを握り締めていた。
 フォンルゥは自分のスボンの中からペニスを引きずり出した。先走りの汁で手を濡らしながら上下に扱き上げる。ドクドクと脈を打って腹に付くほどにそそり立っていた。
 自分がしている行為がひどく淫猥な事だと分かっている。これが性交に繋がる行為だという事も分かっている。それが本来ならば男女で行なう生殖行為であることも知っているし、男同士での行為のことも知っている。初めてではない。誰かにやり方を教わったわけではないが、初めて性交した相手はシュイだった。お互いそういう事に目覚める年頃だった。どちらからという訳ではなく、自然と体を重ねていた。それは自慰の延長のような行為だった。お互いに二人っきりの世界だったから、男同士がダメだとかそういう考えも無かった。好きだったし、唯一の相手だったし、それが自然の成り行きだった。
 だが今の自分のこの行為はどうなのだろうか? ひどく強引で淫猥だと思った。無垢なウェイライを汚している気分だ。こんな風に男のペニスを口に咥えている自分にも驚く。こんなことはしたことが無い。だが今は自分を抑えられない衝動に突き動かされている。ウェイライの雄の匂いに興奮している。ペニスだけじゃない、ウェイライのすべてを舐め尽くしたいと思うくらいの厭らしい衝動に囚われていた。獣であればその血の一滴までも喰らい尽くしたいと思う衝動に似ている気がした。

 雄の本能が全身を支配している。

 ペニスの形をなぞるように舌を這わせた。根元をチュウと吸ってから、陰嚢を口に含んだ。吸ったり舌で愛撫すると、ペニスから大量の透明な汁が溢れ出た。自分のペニスを扱いていた右手を離して、ウェイライの股の間へと滑り込ませた。指の腹で孔の入口を愛撫する。ゆっくりと中指を中へと埋めていった。
「ああっああっうあっ」
 ウェイライが喘いで、ベッドに置いていたフォンルゥの左手首を掴んだ。竜の鱗に覆われて長い爪を持つ左手は、ウェイライの生身の肌に傷をつけてはいけないと、ベッドに手を付いて使っていなかったのだが、その手首をウェイライがぎゅうと掴んできた。そのぬくもりも愛しい。
 指が根元まで入ると、ゆっくりと抜き差ししてそこを緩める。舌で孔の周りを舐めながら、唾液を送り込む。ゆっくりとじっくりとそこを解していった。
 ウェイライの甘い喘ぎ声を聞きながら、その僅かな反応の変化に孔の解れ具合を計ってもう1本指を増やす。
 かわいそうなことをしてしまうと分かっていても、そこに自らのペニスを挿し入れてウェイライの総てを手に入れたいという衝動を抑えることは出来ない。もう限界にまで高まっている昂ぶりが、早くそこを貫きたいという欲望で満ちている。止められない欲望の代わりに、せめて少しでも傷つけないようにと、丹念にアナルを愛撫する。
 指が3本入るほどに孔が解れた。指を深く入れると少し苦しげな声を漏らす。だが熱いウェイライの内部が収縮して受け入れようとしているのを感じる。ウェイライのペニスは今にも射精してしまいそうなほどになっていて、アナルへの愛撫が快感になっているのが分かった。
 指をゆっくりと引き抜いた。その手をウェイライの左足の膝に置いて、大きく股を開かせる。腰をゆっくりとウェイライの股の間に入れて、そそり立つペニスをウェイライのペニスの根元に押し付けた。
「あっ……ああっ……フォン……ルゥ」
 何かを予感したのか、ウェイライがブルリと身を震わせた。頬を高揚させて涙に濡れた目でフォンルゥをみつめる。
「すまない」
 フォンルゥは小さく呟いてから、解されて赤く色付いているウェイライのアナルを狙うように、腰を動かしてペニスの先を孔の入口に押し当てた。右手をペニスの先に添えて、アナルを押し広げるようにペニスの先を入れた。ググッと肉が中に引き込まれる。亀頭の半分を押し入れたところで、入口が広がってズブリと中へと埋まっていった。
「んんんっ……んー―-――っ……あああっ……」
 ギュウッと強くフォンルゥの左手首が掴まれた。鱗に覆われたフォンルゥの手首は、どんな強く掴まれても爪を立てられても痛みは感じない。だがウェイライの熱は感じていた。
 そして中に埋もれていくペニスにも、ウェイライの体内の熱さが伝わってくる。肉を分け入るように、最奥までペニスを挿し入れた。太くて長いフォンルゥのペニスに貫かれて、アナルは限界までに広がっていた。根元まで埋まったところで、一度動きを止めて体をウェイライの上に覆い被らせた。
 軽く口付けると、ウェイライが目を開ける。両目には涙が溢れていた。
「すまない」
 フォンルゥはもう一度言った。するとウェイライはフルフルと首を振って見せた。
「痛くないか?」
 するとまたウェイライは首を振った。
「熱い」
「熱い?」
「おなかの……中まで……フォンルゥが入ってる……すごく熱い……焼けそうなくらいに熱いよ」
「それはオレもだ……お前の中はひどく熱い」
「あっ……」
 フォンルゥの言葉を聞いて、ウェイライはカアッと赤くなると身を捩じらせた。するとウェイライの中がギュウギュウと収縮して、フォンルゥのペニスを締め上げる。フォンルゥはクッと眉間を寄せて喉を鳴らした。堪らず腰を揺する。
「あっあっ……待って……待って……動かないで……どうにかなっちゃう……んんっんっんっ……」
 ウェイライは背を逸らせてビクビクと体を震わせた。射精したのだ。それに煽られるように、フォンルゥは我慢できずに腰をゆさゆさと動かし始めた。
「あっあっあっあっ」
 揺すられるたびにウェイライは声を漏らした。懸命に口を塞ごうと左手の甲を唇に押し付ける。だが体が揺さぶられるたびに、息と共に声が漏れ出る。自分のこんな声も恥ずかしくて仕方なかった。ギュウとまたフォンルゥの左手首を握り締める。
 ペニスを深く挿し入れたまま、しばらくゆさゆさと腰をゆすっていたが、やがて少しずつ前後に抜き差しを始めた。ペニスが中から引かれるたびに、中を満たしていた大量の先走りの汁も一緒に溢れ出てきて、挿入の潤滑剤になっていた。ジュブジュブと抜き差しするたびに淫猥な音をたてた。小刻みに腰を前後に動かしたり、時折抜けてしまいそうになるくらいに腰を引いては、また深く差し入れたりを繰り返した。
 二度目の射精をしたウェイライのペニスは、まだ硬さを保って腰を揺すられるたびに揺れていた。ギシギシと一定のリズムでベッドが軋み、二人のハアハアという息遣いが交わりあう。肉の交わる音も重なっていた。
「あっあっあっあっ……んんっ……フォンルゥ、フォンルゥ……もうダメ……また……いっちゃう……」
 次第に激しくなるフォンルゥの腰の動きに悶えながら、ウェイライが震える声でそう訴えると、フォンルゥは一度動きを止めて両手をそっとウェイライの背中の下に差し入れると、その体を抱き起こした。ベッドの上に胡坐をかいて座った状態で、ウェイライの体を抱きしめる。
「あっあっあっ……深い……フォンルゥが……深く入ってくるよぉ……」
 ウェイライは自分の体重でズブズブと深く入ってくるフォンルゥのペニスから逃れようとするかのように、フォンルゥの首に抱きついて体を浮かそうとした。だが足に力が入らずに、どんどん深く挿し入れられていく。
 フォンルゥはウェイライの顔を右手で掴むと唇を奪った。深く深く口付ける。
「一緒にいこう……お前をもっと感じたい」
 フォンルゥが囁くと、ウェイライはそれに答えるように再び唇を重ねて、ウェイライの方からも深く唇を吸った。ゆさゆさと腰を揺すると、ウェイライのペニスもフォンルゥの腹で擦られる。深く差し入れられて腰を揺すられるたびに、内壁を亀頭のカリの部分が擦り上げて刺激する。両方からの刺激と快楽に、ウェイライは恍惚となっていた。頭の中が真っ白になるようだ。
「あっあっあっあっあっ……んんんんっっっ」
「ウェイライ……っううっ……くっ……」
 二人は同時に射精した。
 ウェイライはギュウとフォンルゥの首にしがみついて、ビクビクと体を痙攣させていた。その体をフォンルゥも強く抱きしめる。
「愛してる」
 フォンルゥが囁くと、ウェイライはポロポロと涙を零してフォンルゥの耳に口付けると「愛している」と耳元で囁き返した。


© 2016 Miki Iida All rights reserved.