ビジネスマン的恋愛事情 〜海の向こうから来た男〜

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 その日の夜、柴田は出先から戻って来なかった。
 遠山の姿も何時の間にか見えなくなっていて、西崎は不安になった。昼間、あんなに衝撃的な目に遭ってから、西崎は午後はめちゃめちゃだった。
 いや、仕事は卒無くこなしたと思う。一見では誰も気づかなかったかもしれない。
 だが西崎自身は、かなり動揺していて、集中力も欠いていたし、余裕がなかったと思う。
 遠山に、西崎の性癖がバレていたのだ。柴田との関係も感づかれたのだろうか?
 いや、それよりも柴田を狙っているのだとしたら、そっちの方が大問題だ。
 柴田の事は信じている。だがあの男が、強引に事を進めたら?柴田は抵抗できるのだろうか?
 残業していても、全然集中力がなくて、8時になった時点で、これ以上やってもダメだと諦めて帰る事にした。
 携帯電話を確認しても、柴田からのメールは無い。
『今日は早めに家に帰っています。遠山さんには気をつけてください』そんな文面を打ったが、送信しようとして思い直した。
『今日は早めに家に帰っています。』とだけメールを送った。


 その頃、柴田は遠山と一緒にいた。柴田にしてはめずらしく、イタリア料理店で食事をしていた。
 呼び出したのは柴田の方だった。
 遠山はパエリアを、柴田はパスタを食べていた。
 明るい雰囲気の店内で、若いカップルの客が多い人気店だった。落ち着いた話しの出来るような感じの店ではなかったが、なぜか柴田はこの店を選んだのだ。
 それには訳があった。今日は、話し合うつもりはなかったからだ。
 いつもの和食の落ち着いた店で、酒を飲みながらじっくりと話しをするつもりはなかった。柴田には、今日、遠山に話す言葉がもう決まっていた。
 それは内容的にちょっと重い話しになりそうなので、わざと明るい雰囲気で、用件のみをさっさと伝えたかったのだ。だから食事もサッサと済ませられるものにしたかった。
 今日は週末だ。
 ヘタすると飲んで朝まで付き合わされる恐れもある。それだけは避けたかった。
「それで? 話しというのは……やっぱり昨日の件なんだろう?」
 遠山は、パエリアを半分ほど食べた所で、ワインを飲みながら、ようやく話しを切り出した。柴田はハーブのサラダを食べながら、コクリと頷いた。
「NO?」
 柴田が言うより先に、遠山が一言言ったので、柴田はニッコリと笑った。
「ええ……NOです……すみません」
「まあ断られるかもとは思ったが……そんなにアッサリねえ……」
 遠山は苦笑した。
「これでも色々と考えたつもりなんですけど……やっぱりここでこのまま働きたいです。先輩には申し訳無いんですけど……」
「そうか……」
 しばらく沈黙が流れた。柴田はゆっくりと食べ続けていた。
 遠山はワインを傾けながら、そんな柴田をみつめていた。
「本当に考えた? ……西崎君の事も?」
「ええ……だけど、このままだって、彼をもっと活躍させる事は出来ます。私がいなくなる事で、突き放して鍛えることはできるのかもしれない……だけど彼にはそんな荒療治は必要ないと思うんです。彼は彼の力で、ちゃんと上っていける男だと思いますから……私はむしろそれを近くで見ていたいです」
「そうか……」
 遠山は残念そうな顔で苦笑した。
「また、お前と一緒に働きたかったんだがな……」
「すみません……そう言っていただけるだけでも嬉しいです。私だって、先輩と働きたかったんですけど……」
「まあ、チャンスはこれっきりじゃないしな……また勧誘しにくるよ」
「凝りませんね」
 柴田はクスクスと笑った。


「それじゃ……また月曜日に……」
「なんだ……本当に食事だけか」
 イタリア料理店を出た所で、柴田が別れを告げたので、遠山は呆れたように言った。
「すみません。先輩は、明日ゴルフで朝早いでしょ? 今日はおとなしくホテルに戻って寝てください」
「まったく……ひどい後輩だ」
 二人は笑い合った。柴田は一礼すると、地下鉄の駅へと向った。


 土曜日は、西崎が知合いから車を借りてきて、二人でドライブへと出かけた。
 昨夜は、9時過ぎに柴田が帰ってきた。
「今日は早かったんだな」と、先に帰っていた西崎に、いつもと変わらない様子で柴田は言った。
 柴田は仕事先の人達と食事だけしてきたと、言い訳をしたが、絶対遠山と一緒だったのだろうと、西崎は思った。
 だが柴田がそう言う以上、何も聞けなかった。柴田が嘘をなんでついたのか解らなかったが、それ以外はいつもの柴田だったので、変に疑う事は辞めようと、西崎は自分に言い聞かせた。
 あんまり嫉妬するのもみっともないと思う。
 車を横浜まで走らせて、一日デートをした。その夜は、せっかくだから泊まろうと、柴田が言い出したので、横浜の人気のホテルに泊まることにした。
 土曜日だったし、予約なしのいきなりだったので、無理かとも思ったが、通されたツインの部屋は、結構上層階で、海が見える眺めの良い部屋だった。
「ちょっと中華を食べ過ぎたな……お腹が出てるよ」
「どれどれ」
「こら……やめろよ」
 西崎が柴田を後ろから抱きしめて、お腹を触るので、柴田は笑いながら身をよじらせて抵抗した。
「もう……ムードがないなぁ……ほら、夜景を見ろよ。綺麗だろ?」
「彰の方が綺麗だよ」
 柴田は真っ赤になって、西崎をキッと睨んだ。
「そういう……歯の浮くような台詞をサラリと言うな」
「彰の前だと、ウッカリ出ちゃうんだよな〜〜」
「もう……」
 柴田は、テレ隠しに、西崎にキスをした。西崎もそれに答えるように、柴田の体を抱きしめた。
 ふたりは長いキスを交わした後、唇を離してみつめあった。
「先にシャワー浴びる?」
 西崎に囁かれて、柴田はおとなしくコクリと頷いた。
 柴田がシャワーを浴びている間、西崎は窓辺に立って、ぼんやりと夜景を眺めていた。どうしても西崎の心配事は消え去らなかった。
 遠山は、柴田を仕事のパートナーとして勧誘するだけが目的ではないのだ。個人的な感情も含まれているらしい。
 そうなると、それこそどんな手段を取られるか解ったものでは無いのだ。
 柴田が、もしも仕事を取ってしまったら、それはそれで仕方ないと思わなければいけないと考えていたのだが、遠山が狼の牙を持っているのなら、話しは別だ。
 西崎は断固として邪魔をしなければいけないと思った。冗談じゃない。恋人を寝取られるのを黙ってみているほど、人が良い訳ではないのだ。
「聡史……いいよ」
「あ……うん」
 柴田がバスローブを羽織って出てきた。
 西崎もシャワーを浴びに、バスルームへ入った。
 遠山は、木曜日に帰国する。残すは正味3日だ。絶対阻止するつもりでいた。
 西崎もバスローブを羽織って、外に出ると、柴田はすでにベッドに横になっていた。西崎もベッドに歩み寄ったが、柴田の寝るベッドではなく、もう一方のベッドに座ると「おやすみ」と柴田に一言言った。
「え!?」
 柴田が驚いて起きあがったので、西崎はブッと吹き出してゲラゲラと笑い出した。柴田は一瞬キョトンとなったが、みるみる真っ赤になって、枕を西崎に投げつけた。
「なんでそんな意地悪するんだよ!!」
「アハハハハハ……ごめんごめん……彰があんまりかわいい反応するもんだから……」
 西崎は笑いながら、柴田のベッドへと移った。怒る柴田を宥めるように抱きしめて、何度もキスをした。
「もう……」
「ごめん」
 西崎は優しく囁きながら、柴田のバスローブの紐をほどいて、素肌を露にした。
 考えて見ると、もう5日も柴田を抱いていない事を西崎は思い出した。自分からホテルに泊まろうと言い出すなんて、柴田なりのアプローチなのかと思うと、とても愛しく思う。
 深く浅く何度も、柴田の唇を吸いながら、その体をベッドに沈めた。
 西崎は体を起こして、バスローブを脱ぎながら、目の前に横たわる柴田の体をみつめた。いつ見ても綺麗だと思う。
 無駄な肉の無いほっそりとした体は、貧弱なわけではなく、日頃から水泳をしているせいで、引き締まった綺麗な体つきだった。
 これから起こる事を予感してか、柴田の分身はすでに少し頭をもたげていた。
「そんなに……みないでくれ……明かりを消して……」
「いや……今日は彰の顔を見ていたいんだ。このままでいいだろう?」
「嫌だよ……恥かしい」
 柴田が身を捩らせて恥かしがるのを、西崎は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。
 この人のこんな姿を見れるのは自分だけなのだ。
 西崎は覆い被さると、唇を吸った。優しく、激しく、深く、浅く、上唇も下唇も何度も吸って、舌を咥内に入れると愛撫した。
 柴田は、西崎のくちづけに酔わされながら、両腕を背中に回した。
 柴田の首筋に、鎖骨に、唇を這わせて舌で愛撫すると、甘い吐息が漏れた。ツンと立った乳首を口に含んで強く吸い上げると、「ああ……」と喘ぎ声が零れた。
 すっかり立ちあがった中心を、左手で包み込み、上下に扱き上げた。
「ああ……んん……聡史……そんな強くしたら……ああ〜〜っっ!!!」
 鈴口の割れ目を親指の腹で擦って刺激を与えると、柴田は悲鳴に近い声を挙げて、腰を震わせた。ビクリと腰が跳ねて、最初の射精をした。
 頬を上気させながら、柴田は息を乱して喘いだ。西崎の愛撫は続いていた。
 柴田の白い胸に、いくつもの赤い跡をつけていた。まるで自分の印を残すかのように。
 柴田の精液を両手で受けとめた西崎は、それを柴田の秘所に塗り込み始めた。蕾をほぐす様に、指で愛撫をする。まず人差し指を挿入して、中を掻き回した。
「んん……はあはあ……あああ……」
 柴田は無意識に足を広げて、腰を浮かしていた。西崎は、指を引きぬくと、顔を埋めて秘所を舌で愛撫した。
「あ……ああ……聡史……いや……」
 柴田は西崎の頭を掴んで、引き剥がそうとしたが、思うように力が入らなかった。バックを舐められるのはニガテだった。頭の芯が痺れて、気持ち良いのかなんだか解らなくなってしまうのだ。
「聡史……お願い……もう……」
 柴田が懇願するので、ようやく西崎は体を起こすと、柴田の腰を抱え挙げて、その中心に深く自身を埋め込んで行った。
「あああああ……」
 深く貫かれて、柴田は激しく喘いだ。西崎は腰を激しく動かしながらも、ずっと柴田の顔をみつめていた。
 ゾクゾクするほど色っぽいと思う。頬を上気させて、貫かれるたびに喘ぐその顔は、とても艶かしかった。
 西崎はそれだけで、達してしまいそうになった。
 普段はあまり欲のない西崎だったが、この瞬間だけ、柴田をこんな風にしたのは自分なのだという、一種の征服感を覚えた。
「あ……ああ……んんっ……あん……聡史……ああ……聡史……イク……ああ……もう……んんっ」
 西崎がより深く攻めた所で、柴田は絶頂を迎えて2度目の精を放った。ギュウッときつく絞められて、西崎も中へと射精した。
 今日は、柴田を放したくなかった。めちゃめちゃにしてしまいそうだった。
 西崎は、柴田を朝まで何度も抱き続けた。
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