秋晴れに騎士は狼になる

モクジ|モドル|ススム

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 誰もいない教室だった。普通の教室よりも広く感じた。
 何事かと眞瀬はキョロキョロとしていたが、藤崎は黙ったままグイグイと眞瀬の手を引いて、教室の奥へと歩いていく。奥にあるドアを開けて、更にその中へと入っていった。ドアを閉めると藤崎は中から鍵を閉めた。
 カーテンの引かれたその小部屋は、少しカビ臭い篭った空気の匂いがした。薄暗くて、先ほどの教室との間のドアにある明り取りのガラスから入る明かりだけしかなかった。
 置いてある物を見て、そこが美術室の準備室だと言う事が、はじめて解った。
「裕也……いきなりどうしたの?」
「凌介」
 藤崎は、答える代わりに眞瀬を抱きしめて唇を重ねた。
「ん……」
 眞瀬は一瞬驚いたが、目を閉じると藤崎のキスを受け入れた。藤崎の首に腕を回すと、深く深く口付けを誘い込む。二人は次第に夢中になって唇を求め合った。
 藤崎の手が、眞瀬のズボンの前を触ると、眞瀬は身をよじらせた。藤崎はかまわず眞瀬のズボンのファスナーを下ろして、中へと手を差し込むと、半ば勃ちかけているモノをやんわりと握り、扱き始めた。
「あ……ん……んん……」
 眞瀬は塞がれている唇の合間から、苦しげに吐息を漏らした。藤崎が唇を離してようやく解放されて、眞瀬は大きな吐息の様な深呼吸をした。コリッと耳たぶを噛まれて、甘い声を漏らす。
「裕也……こんな所で…誰か来たらどうするんだ……」
「大丈夫……教室のドアも鍵かけているから」
「バカ……そういう問題じゃ……ああ……」
 後ろに藤崎の指が深く挿入されたので、眞瀬は思わず息を飲み込んで身を反らした。中を掻きまわす様に愛撫されて、眞瀬は甘い声をあげた。足の力が抜けて、立っていられなくなりそうで、藤崎の首にしっかりと抱きついていた。
「裕也……裕也……」
 藤崎の耳元で、その名を何度もつぶやいた。
「凌介……」
「裕也……お願い……もう……」
「いいの?」
 眞瀬はコクリと頷くと藤崎に抱きついていた腕を解いて、少し体を離した。後ろ向きになると、壁に手を着いて、藤崎の方にお尻を突き出す形になった。
「来て……」
 誘うような眞瀬の囁きに、藤崎はゴクリと唾を飲み込み、ズボンの前を開けて、自分自身を取り出すと、眞瀬の腰を掴んで深く挿入した。

「エッチな騎士殿だな……」
 木箱を椅子の代わりにしてぐったりとした様子で座っていた眞瀬が、側の棚に無造作に掛けられた黒いベルベットのマントを手繰り寄せながらクスリと笑って呟いた。ズボンを履きなおしていた藤崎が、ちょっと赤くなって気まずそうな顔でチラリと眞瀬を見た。眞瀬はマントを体に巻いて、クスクスと笑っている。
「ごめん」
「なんで急に?」
「……凌介があんまりかわいいから」
「は?」
 藤崎は頭をポリポリと掻いた。
「だから……凌介が……女の子達に嫉妬したって言った時の顔が……あんまりかわいくて……キスしたくなったんだ」
眞瀬はその言葉に、思わず赤面した。藤崎は、恥かしいのを誤魔化すように、棚に掛けていた衣装の上着を取って着はじめた。
「それで? キスだけじゃなく? 3回も?」
「だから……ごめん」
 藤崎は頬を染めたままテレくさそうに言った。眞瀬は箱の上に膝を抱えて座って、マントで身をスッポリと包んでいた。
「ほら……ふざけてないで、凌介も早く服を着ろよ」
「やだ」
 眞瀬はクスクスと笑った。藤崎は「もう……」と言いながら、眞瀬の側に来るとマントを取り上げ様として引っ張ったが、眞瀬がギュッと掴んで離さなかった。
「凌介」
 眞瀬はクスクスと笑っている。
「そんなに慌てて着替えなくてもいいだろう? 鍵閉めているんだし」
 眞瀬は、ちょっといじわるい言い方をした。
「怒っているの?」
 藤崎は眞瀬の顔を覗き込んで尋ねた。眞瀬はクスリと笑うと、チュッとキスをした。
「怒ってないよ……なかなかスリルがあって感じちゃった。学校でなんてめったに経験できるものじゃないしね……ただちょっと意地悪してみただけだよ……それに騎士に抱かれるっていうのも、めったに経験できるものじゃないよね」
 眞瀬はそう言いながら、するりと羽織っていたマントを箱の上に落した。眞瀬の白い裸体が露になる。
「……誘っているの?」
「なんか……今日はいつもよりエッチな気分なんだ……」
 眞瀬の誘惑の眼差しに誘われるように、藤崎は屈むと眞瀬の鎖骨を甘く噛んだ。
「あ……」


「……いいかげんにしろよな」
 ふてくされた様子で、氷上が窓の外を見ながらつぶやいた。
「帰ってこないわね。ふたりとも……」
 木下も待ちくたびれた様子で、頬杖をつきながらつぶやいた。藤崎と眞瀬の二人がいなくなってから、かれこれ3時間以上になる。
「2時間で交代だぞ!! ったく……もう」
「どこに行っちゃったのかしらね?」
「……探しに行こうか?」
「そうね……裕也君は騎士の格好だから、目立つから探したらすぐ解るわよね」
 二人は立ちあがると、探しに行く事にした。
「あ、氷上、どこ行くんだ?」
「藤崎を探してくるよ」
「お前まで逃げるなよ」
「解ってるよ」
 クラスメートに釘を指されて、氷上はむくれた。木下と二人で当てもなく校内を探して周った。
「きゃあ、氷上君、一緒に写真撮って!」
女の子達が氷上の姿をみつけて駆け寄ってきた。
「あ、いいけど……ねえ、藤崎裕也を見なかった?」
「あ……藤崎君なら、美術室じゃないかしら?」
「美術室?」
「うん、私達も写真撮りたいから探しているんだけど……大分前に藤崎君が美術室に入っていったのを見たって子の話を聞いたから行ってみたんだけど、鍵がかかっているのよね」
「ありがとう」
 氷上はとりあえず、御礼の代わりに一緒に写真を撮ると美術室へと向った。すると数人の女の子達が、窓から中を覗いていた。
「どうしたの?」
「あ! 氷上君……なんかね、この中に藤崎君がいるって話を聞いたんだけど、鍵が掛かっているから解らないのよね。どこにいるか知らない?」
「さあ……オレも探しているんだけど……ちょっと待って」
 氷上はドアを離れて、廊下沿いの真中あたりにある窓の枠を持って、がたがたと動かした。
「慎吾君?」
 木下が驚いて声をかけた。
「美術準備室……オレ達の秘密の場所なんだ。ここの窓がこうやっていると鍵が外れるんだよ。独特のコツがいるんだけどね。よく二人でサボるのに使ったりしていたんだ」
 しばらくしてカチャッと音がして鍵が外れた。ガラリと窓を開けると、ヒョイッと乗り上げた。ちょっとした高さのある窓なので、スカートを履いた女の子達には真似出来そうになかった。
「みんなちょっとそこで待っててね、オレが確認してくるから」
「う、うん」
 木下を含めた女の子達はキョトンとしながらも、コクリとうなずいた。氷上は静かに美術室の中を横切って、準備室へと向った。準備室のドアに手をかけて開けようとしたが、鍵が掛かっていて無理だった。ドアのガラス窓から中を覗きこんだ。
 薄暗い室内が見えたがそれ以外何もないようだった。
「気のせいか……」
 と思って立ち去ろうとした時、人の声がした気がした。ドアの隙間に耳をくっつけて、中の音に耳を澄ませた。
「ん……んん……ああ……」
 人の呻き声にも似た声が聞こえてくる。
「ああ、裕也……すごい……ああ……ああぁぁぁっ……そこ、そこをもっと突いて……ああああ……」
 氷上はギョッとした顔になって、思わず耳を離した。
「今の声って……」
 氷上は信じられない思いで、恐る恐るもう一度ガラス窓から中を覗いた。すぐそばの見える範囲ではなく、もっと部屋の奥の方だと思いピッタリと顔を窓にくっつけて、奥の方を見える限りに見た。
 人の姿が見えた。上半身裸で黒いズボンを履いた、男と思われる人物の後姿と、その男の腰の両脇に抱え込まれた2本の白い足が見える。
 太ももまで露になった素足だ。
 その男の後姿には見覚えがある。よ〜く知っている人物にそっくりだ。男が腰を動かすたびに、抱えられた2本の足も上下に揺れるのが見えた。
「$%=♂×♂Å∴∞!!」
 氷上は声にならない声を上げそうになって、慌てて口を両手で塞ぎながら、バッとドアに背を向けた。
『見てしまった』と思った。
 見てはいけないものを見てしまったと思った。
 大パニックを起こしながら、逃げる様にその場を離れた。走ってくる氷上を、木下は驚いたような顔で出迎えた。
「どうしたの? 何かあったの?」
「何かって……あ、いや……あの……なにもなかったよ」
 氷上の答え方がかなり怪しい。
「藤崎君はいたの?」
「いない!! 絶対いない!!」
「本当?」
 氷上の様子がおかしいので、みんな不信そうな顔になった。
 木下がそう言ったので、女の子達もうんうんと同意して頷いた。
「え? いや、いいよ……」
「いいよじゃなくって」
 木下と氷上が押し問答状態になった時、突然校舎の外がなにやら騒がしくなった事に気がついた。階段を駆け下りて行く生徒達の騒がしい声も聞こえる。氷上達は顔を見合わせた。
「なにかあったのかしら?」
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