消え去りし瑕

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全裸にされ、両手を頭の上でロープで縛られていた。ベッドに横たえられて、その姿を石川がニヤニヤと笑いながらみていた。
「良い眺めだな」
 そう言われて、芳也は堅く目を閉じた。視姦されているようだった。
「さすが現役選手だ。良い体をしている。むだな筋肉が無いな引き締まっている」
 舐めるようにみつめられているのを感じた。だがそんな事で興奮はしない。むしろどんどん血の気が引いて行く気がした。芳也のペニスは縮みあがっている。
「縛られるのは好きだったろ? なんだ。全然萎えているじゃないか」
 石川は残念そうに呟いていた。
「それにしても……オフシーズンでよかったよなぁ。体に傷をつけられたら、控え室で着替えも出来ないもんなぁ」
 石川は楽しそうにクククッと笑っている。
「今夜はゆっくり楽しませてもらうよ。昔みたいにな」
 ひどく意地悪な言い様だった。芳也は驚いて目を開けた。
「な……何をする気だ!?」
「何をって……解っているだろ? 昔みたいに楽しむんだよ。道具はちゃんと用意してある」
 石川がそう言って視線を向けた先を見た。部屋の隅に。横長の大きなスポーツバックが置いてあった。それを見て芳也はギョッとなった。どんな道具が入っているのか、見なくても想像はついた。
「や、やめてくれ……それはやめてくれ」
「なんだよ。お前の好きなものばかりだ……お前愛用のものではないけどな。特別に新品を揃えたよ。嬉しいだろ?」
「やめろ!!」
 芳也は叫んだが、それで尚一層石川は喜んでいた。
 石川はバッグの所へと行くと、ファスナーを開けて、中の物を取り出した。
「ほら、木製のバット……金属もあるぞ? どっちが良い? ボールも用意した……これはさすがに入らないか?」
「やめろ! それはやめてくれ! 頼む!」
 芳也は必死に叫んでもがいた。しかし手を縛るロープは、もがくほどにキツクなった。
「まあ、これは後のお楽しみと言う事で……まずは久しぶりだから、普通にその体を思い出して見ようかな?」
 石川はそう言って立ち上がると、上半身裸になって、ベッドの上に乗ってきた。横たわる芳也の体に被さると、その首筋を強く吸った。芳也は体を震わせて目を強く閉じた。石川の唇が、首筋から胸へと這って行く。チュバチュバと卑らしい音を立てて吸われていた。だが芳也にはその感覚はおぞましいだけで少しも気持ち良くは無かった。
 散々体中を舐められて愛撫された。石川の方は興奮しているらしく息使いが荒くなっている。しかし芳也は静かだった。マグロの様にただ横たわっていた。早く終って欲しい。そればかりを考えていた。縛られている手が痺れてきていた。そちらにばかり意識が向く。石川は先程から懸命に芳也のペニスを咥えて吸っていた。だが一向に硬くなるどころか萎えたままのソレに、かなり苛立っているようだった。とうとう諦めて、ペニスを解放すると、今度はアナルを弄り始めた。指の腹で、蕾をグイグイと押すと、芳也が「んっ」と唸った。その反応に石川が嬉しそうな顔になった。
「やはりこっちが好きそうだな」
 石川はそう言うと、中指をズブリと中へ挿し入れた。
「随分使い込んでいるみたいだな。簡単に指を飲み込むぞ」
 芳也は悔しさと恥かしさで、顔を赤くしていた。あんなに不快だと思っているのに、指を入れられて反応してしまう体をおぞましく思った。ギュッと下腹に力を入れて、進入を拒んだ。
「そんなに締めつけるな」
 石川は嬉しそうにそう言って、指を無理矢理もう1本入れ様としていた。苦しさに芳也は顔を歪めた。
「抵抗すればするほど、長引くだけだぞ? 好きにしていいんだろ? 今夜は……」
 言われて我に返った。そうだ。今夜は彼の好きなようにさせるつもりだったのだ。こうなる事も覚悟してのことだ。さっさと終らせてしまおう。
 芳也は観念したように力を緩めた。途端に2本の指が中へと埋め込まれて行く。
「んんっ……」
 グリグリと中を掻き回されて、思わず声をあげそうになった。歯を食いしばってそれを我慢すると唸り声になる。
「もういい……お前にはやさしくする必要はないな」
 苛立ったように石川はそう言って指を引き抜くと、おもむろにグイッと芳也の両足を抱えた。グッとアナルを堅い物で押された。
『来る……』芳也はそう思って目を強く閉じた。グイグイと肉を割って、石川の硬くそそり立つペニスが入ってきた。まだ完全に解れていない蕾が悲鳴を上げる。痛みが走って、それから逃れ様と、芳也は無意識に力を抜いた。
「良い具合だ……さすがだな。肉が食い付いてくる」
 石川は卑らしい笑い声を上げると、腰を前後に動かし始めた。芳也の体内を出入りする肉塊は、不快なものでしかなかった。それは芳也を快楽へと導く物ではなかった。一方的に動き回る肉塊だ。激しく揺さぶられて、ベッドのスプリングがギシギシと音を立てていた。芳也の尻に石川の腰が当って、時々パンパンと肉を叩く音がした。
 石川はすっかり快楽に酔いしれているらしく、夢中で腰を振りながら、ハアハアと息を乱している。芳也の体内で蠢いている石川のペニスの先から出るカウパーで、ようやく潤滑がよくなってきた。ミシミシと音が出そうなくらいにきつかったその出し入れも、スムーズに動き始めていた。よほどカウパーの量が多いのか、接合部分も濡れ初めて、ヌチュヌチュと卑らしい音を立てていた。しかし芳也はまだ不快なままで、その行為に一向に感じる事はなく、芳也のペニスも萎えたままだった。体を激しく揺さぶられて、萎えたペニスがブラブラと腹の上で揺れるだけだった。
「おうっ……おお……おお……」
 石川が唸るような声で喘ぎ始めたので、芳也は目を開けてぼんやりとその顔をみつめた。赤く顔を上気させて、目を閉じて、石川はハアハアと息を荒げながら、時々声を漏らしていた。恍惚とした顔がなんだか間抜けだと思って、芳也は可笑しくなっていた。まるでAVを眺めているようだと、人事のように思っていた。冷めていた。とてもSEXしている気分ではなかった。
 この人は、こんな顔をして自分を抱いていたのかと、冷静にみつめていた。
「おおう……んん―――っ……んん―――」
 石川の腰の動きが変わった。小刻みに早く動かし始めた。もうすぐ射精するのだろう。芳也はぼんやりとそう思った。
 その時、ドアの開く音がした。続いてドカドカと足音がしたので、人が入ってきたのだと芳也は驚いた。しかし石川はまだ気づいていないようで、夢中で腰を動かしていた。
「芳也!」
 その声に芳也はギョッとなった。石川の所為で見えないが、その声の主は知っている。
 さすがに石川も気づいてギョッとした様子で動きを止めて振りかえった。そこには東城が険しい顔で立っていた。
「なっ……なんっ……」
 あまりの驚きに石川は声にもならないようだった。
「お前、いい加減に芳也から離れろ!」
 東城がそう怒鳴って、石川の肩を掴むとグイッと引いた。石川は後ろにひっくり返りそうになりながら、無理矢理体を引っ張られて、芳也からペニスが引きぬかれた。
「ああっ……」
 勢い良く引き抜かれたペニスの先から、ピュッと白い精液が飛び出して芳也の足に掛かった。ビクビクと痙攣しながら、ペニスは射精を続けていて、断続的にビュルビュルと精液を吐き出した。
 東城はそれを眉間を寄せながらみつめていた。
「見苦しいな」
 一言そう言うと、乱暴に石川を床に転がして、ベッドの上に乗ると、芳也の体を抱き起こした。
「大丈夫か?」
 東城はそう言いながら、芳也の手を縛られているロープを解いた。
「きっ、君は……し、し、失礼じゃないか!! なんだいきなり!! なんで部屋に入れるんだ!! ホ……ホテルの責任者は!! なんで客の部屋に、無断で他人を入れるんだ!!」
 石川は羞恥のあまり顔を真っ赤にしてわめき散らしていた。立ちあがって、体を怒りにブルブルと震わせていた。
 東城はそれを無視したままで、芳也を縛っていたロープを取ると、コートを脱いで芳也の体を包んだ。
「このホテルがウチの傘下なのを知らないのか?」
 東城は侮蔑の表情を浮かべながら、冷たい口調で石川に向かって言った。石川はまだ真っ赤になって震えている。こんなに怒り狂い取り乱した石川を見たのは初めてだと思った。
「芳也、行こう」
 東城は芳也の肩を抱いて立ちあがろうとした。
「待て!! 勝手なことをするな!! 芳也は今オレと……」
「芳也はオレの物だ。勝手にオレの物に手をつけて、それでただで済むと思うな」
 怒鳴り散らす石川の言葉を、東城の声が遮った。その朗々とした声に、完全に負けていた。
「こ……こんな事をして……いくら東城社長でも……失礼極まりない!! 侮辱だ!! 父に言ってただでは済まない事になるのは貴方の方だ!!」
 石川は尚も叫び続けた。声が少し裏返っている。
 東城は冷静なままだった。冷酷に眉を寄せたまま、芳也の体を抱き締める様にして立ちあがった。
「石川博雅……君は何か勘違いをしている様だ。石川重工の社長は、君の父親であって、君は一介の社員に過ぎない。まだね。まだただの課長ごとき社員だろう? 君にはなんの力も無い。その君が私に何をするっていうのだね?」
「だ、だから……石川重工の社長の息子に……次期社長に、こんな恥をかかせて良いと思っているのか!」
「だから?」
 東城は冷酷な口調で聞き返した。石川は真っ赤な顔のままグッと言葉を詰らせてしまっている。東城の威厳の前に言葉を無くしているのだ。全裸で、なんとみっともない姿なのだろうと、芳也はぼんやりとみつめた。あれが恐れていた『石川先輩』なのだろうか?
「だから? 坊や、まだ解らないのか? 確かに……石川重工は、業界トップの大企業だ。偉大なる会社だと思うよ? そしてオレはTOJOの社長だ。だが君が石川重工の次期社長であるのと同じ様に、オレも東城グループの次期総帥だ。解るか? あまりオレを本気で怒らせない方が良い。東城財閥が本気になれば、石川重工ごとき企業を潰す事など容易い事なのだよ? 君は明日、石川重工を倒産させたいのか?」
 冷酷に言い放った東城の言葉に、石川はみるみる真っ青になっていった。ブルブルと震えているのは、先程の怒りとは違う物のようだ。
「芳也、さあ行こう」
 東城は、抱き起こすように芳也を立たせると、床に脱ぎ捨てられた芳也の服を拾いながら部屋を立ち去ろうとして、ドアを開く前に1度クルリと振りかえった。
「君が父上に言いつけるまでもなく、オレの方から父上にご挨拶をしておくよ。今後も末永く石川重工とTOJOが付き合っていけるようにね」
 そう言い捨てて部屋を出て行った。
 人の気配の無い廊下を、コートに包まれて、東城に抱えられるようにして歩きながら、芳也は東城の横顔をみつめた。
「あの……こんな格好で……」
「上の部屋へ行くだけだ」
 芳也を宥めるように言った東城の声は、とても優しかった。

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