消え去りし瑕

モドル | モクジ

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 何度も何度も、体の隅々まで泡を立てて洗われていた。
 バスタブの中で、東城に抱き抱えられるようにして、その身を委ねていた。大の男が二人で入るには狭いバスタブだった。あまり身動きが取れないが、密着した体はそれなりに都合が良い。
 ずっと東城は黙ったままだ。怒っているのかと思ったが、芳也の体を洗ってくれて、とても優しく触られる。芳也は心地よさに、その背を東城の胸に委ねるように凭れ掛けていた。
 東城は後ろから芳也の手を掴むと、自分の方に引き寄せた。その手首を口付けられて芳也は驚いた。
「跡が残るな」
 縛られたロープの跡が赤くうっ血していた。芳也がもがいて暴れた所為だ。
「数日で消えるよ」
 芳也は呟くように答えた。
 あんなに怒った東城を見たのは初めてだと思った。怒鳴ったり叫んだりしなくても、表情や語気で、いつもの冷静な東城ではなかったことは分かる。そして間抜けな姿の石川を思い出して、クスクスと笑った。
「なんだ?」
「あ……いや、なんでもない」
 芳也はハアッと息をついてから、ハッと突然何かを思いついたようになって、後ろにいる東城の顔を見ようと身を捩らせた。
「ど、どうしてあの部屋にいるって……いや、このホテルに居るって解ったんだ?!」
「昨日、お前の様子がおかしかったから、何かあると思って、ずっとお前の身辺を見張らせていたんだ。そしたらお前がこのホテルで石川と会っていると報告があったから……慌てて駆けつけたんじゃないか」
 東城らしくなく語尾がトーンダウンして誤魔化したので、芳也は目を丸くした。『慌てて駆けつけた』って誰が? 東城が? 東城が慌てて?
「どうして……慌てたんだ?」
「お前が……言っていた相手だろう? 石川は……あの石川先輩なんだろう?」
 やはりバレている。そう思って芳也は顔を曇らせて、身を硬くした。その様子の変化に、東城はギュッと芳也の体を抱きしめた。
「もう忘れろ。あいつはこれでもう2度と、お前を脅かす事はないだろう。大体……脅されたのなら、オレに言えば良いものを……またこんな良い様にされるなんて……お前はバカだ」
「だって……だって……」
 芳也は震えていた。忘れたいのに忘れられなかった記憶。石川を前にして抗えなかった自分。
「何があったか知らんがもう昔の話だ。忘れるんだ」
 東城の言葉に、芳也は体を起こして膝立ちするとクルリと振りかえって東城と向かい合った。東城の髪が濡れて、前髪が下りていた。こうしているといつもよりずっと若く見える。こんな東城も好きだと思う。芳也は黙ってそんな東城の姿をジッとみつめていた。東城も見つめ返してる。
 東城が好き……そう自覚している。今回でつくづくと実感させられた。この体は卑らしく汚れていると思ったけれど、今は東城にしか感じない。東城の腕の中でしか乱れない。ずっと呪縛のように心に深く傷つけられていた『石川先輩』という瑕は、もうこの体からは消えてしまっていたのだ。この体はすべて東城の物。東城しか欲しくなかった。例え、東城にとって芳也が恋人などではなくても、『オレの物だ』と言ってくれたあの言葉だけで十分だと思った。恋人ではなくても、東城にとって誰にも渡したくない所有物であるのは間違いないのだ。それならそれでもいいと思う。
「オレは……高校1年の時に、はじめて男に抱かれた。それまで何も知らなかった。もちろん女の子と付き合った事もなく、ただ野球一筋で……高校に入って、野球部に入って、まだ1ヶ月目だった。石川先輩は、野球部の先輩で……当時3年生で、キャプテンだった。彼はコーチも口を出せないほどに権力を持っていて……誰も歯向かう事は出来なくて……もちろん1年生のオレなどは……」
「それで強姦されたのか」
 芳也はコクリと頷いた。
「1度やられたらもう言いなりだった。毎日毎日、部活の後残されて、部室で抱かれた。その内昼休みにも呼び出されるようになった。石川先輩は、次第に残虐性を剥き出しにしていって……ただオレを抱くだけでは満足しなくなった。その内縛るようになり、やがて道具まで使うようになっていった。あの人は……相手が嫌がり苦しむ方がエクスタシーを感じるんだ。最初はバイブで……それに飽きたら……バットを使った。バットのグリップをオレの中に入れて……あれはSEXなんかじゃなく……暴力だった……」
 芳也はガタガタと体を震わせていた。恐怖を思い出していた。
「芳也、もう良い……忘れろ」
 東城が両手を伸ばして、震える芳也の肩を掴んだ。
「でも……でもオレは、それで射精したんだ!! バットを尻に突っ込まれて!! 肛門が切れて、血が出たりして……痛いのに……痛いのに、オレはそんな風に嬲られて、腰を振って射精したんだ!! オレの体は卑らしい……」
「芳也! もう良い!!」
 東城は叫んで芳也の体を引き寄せると抱きしめた。
「もう良い、忘れろ……もうすべて終ったんだ。もう良いんだ」
 東城が唇を重ねてきた。強く吸い上げられて、芳也はせつなげな顔で目を閉じた。舌が絡まり、甘く愛撫する。芳也もそれに答える様に東城の唇を吸い返した。
 やがてゆっくりと唇が離れて、互いの目をみつめあった。東城の眼差しに体が熱くなる。芳也はバスタブの縁に両手を付いて、体を起こした。
「お前はあの男に抱かれても、少しも感じてはいなかっただろう」
 東城の囁くような甘い声に、体が震えそうだった。それは石川の時のような恐れによる震えではない。甘い痺れを伴う震えだ。
「お前のここは、縮みあがっていた」
 そう言って、東城の右手が下から包む様に、芳也のペニスを陰嚢ごと擦りあげた。
「はぁ……」
 芳也は目を閉じて息を飲んだ。そこに全身の血が集まるような気がした。
「オレにはこうされただけで、こんなにも硬くなるのになぁ」
 次第に頭をもたげ始めている芳也のペニスを擦りながら、東城がクスリと笑った。芳也の体が朱色に染まっていた。それは風呂の熱さだけではなかった。東城に優しく愛撫されて全身が昂揚していた。
 下からペニスを擦りあげていた東城の手は、その長い指を蟻の門渡りをなぞる様に愛撫して、そこから後ろへと伸ばすと、奥の窪みに届かせた。
 手の平の丘の部分で、陰嚢を愛撫しながら、指でアナルを愛撫する。
「あっあぁ……んん……んん……」
 芳也は息を乱して、次第に声を漏らし始めていた。ペニスはすっかり勃ちあがり、東城の手の動きに合わせて腰を揺らし始めた。芳也の腰が揺れるたびに、湯がチャプチャプと鳴った。
 中指を蕾に埋め込んで、第1関節まで入った所で、グリグリと動かして入口を愛撫した。蕾が次第に赤みを帯びて、プクリと腫れた様に肉が盛り上がり、指を引き入れる様に蠢き始めた。もっと奥に、もっと奥を弄って欲しいと、芳也は無意識に欲して腰を揺らした。痺れるような快楽が、ジワジワと湧きあがってくる。先程あんなに石川から、アナルを弄られペニスを挿し入れられたと言うのに、全然感じる事の無かったそこが、今は東城の指だけで達っしてしまいそうだった。
 勃ち上がった芳也のペニスの先から、タラタラと透明な先走りの液が溢れ初めて、ペニスを伝って流れ落ちてきていた。
「芳也……オレが欲しいか?」
 甘い囁きに、芳也は頬を紅潮させながら、コクコクと頷いた。それを見て満足そうに笑みを浮かべると、芳也の体を抱き上げながら、後ろ向きに変えさせて、ゆっくりと自分の昂ぶりの上に座らせた。芳也の腰が降りて、その中心に東城の昂ぶりが当る。
「あっ……はあっ……んんんんっ……」
 先端がズブリと蕾を広げながら埋まり始めると、後はどんどん中へと挿入されていく。芳也はゆっくりと息を吐きながら、その熱い昂ぶりが体内へと入ってくるのを感じて、身を震わせた。尻が下まで着いて、東城のペニスを根元まで飲み込むと、震えるような喘ぎ声を漏らして背を反らした。
「ああああ……あっあっ……あっ……」
 もうそれだけで射精してしまいそうだった。湯に浸かった芳也のペニスがビクビクと痙攣している。
「動かすぞ」
「待って……あああっ……ダメ……」
 東城が、芳也の両脇から腕を回して抱きかかえると、その体を上下に揺らした。ズブズブと浅く肉塊が出入して、結合部分から湯が染み入ってくる。
「あっあっあっ……ん……ん……くうっ……」
 芳也は体を一瞬硬直させると、ビクビクと内股を痙攣させて射精した。湯船に白いタンパク質の塊が浮かんだ。
「随分早いな」
 東城がそれを見てクスクスと笑った。芳也はハアハアと息を乱しながらも腰を揺らした。射精はしたが、まだペニスは硬いままだった。痺れるような余韻を味わって、腰が揺れていた。体に埋め込まれている東城の熱さに痺れた。
「あっああ……あ……熱いっ……貴司のがっ……熱い……」
 湯を揺らしながら、腰を揺する芳也の体を、後ろから抱きしめて、そのうなじを吸った。
「はっ……ああ……ああ……はうっ……もっと……貴司……もっと……」
 うわ言の様に甘く呟く芳也に、東城は目を細めると、突き上げる様に腰を動かした。
「もっとってどれくらいだ? こうか?」
 耳元で東城が艶のある声で低く囁くと、芳也はビクリと体を震わせた。
「ああっ…ああっ……んんっ……貴司っ……ああっん―――っ……んんっ」
 激しく突き上げられて、芳也は歓喜の声をあげた。湯が溢れそうになるくらいに激しく波立っていたが、二人は構わずに腰を動かし続けた。東城も息を乱している。ぎゅうぎゅうと芳也のアナルが締めつけてきて、東城は深く腰を突き上げてから、その中に精を吐き出した。芳也もまた射精した。


 ベッドに横たわり、両足を大きく開いて東城を受け入れた。肉が激しく当って音が鳴る。中へと吐き出された精液が、結合部分から溢れ出て淫猥な音を立てる。それでも構わずに抱き合った。東城の腰の動きが大きく激しくなると、芳也は喘いで背を反らした。もっともっとと欲して、一緒に腰を揺らす。飢えた獣の様に東城を求めた。乱れた。もう何も考えられなかった。
 何度射精したのか解らない。芳也の腹の上も、股間も、内腿も、精液でグチョグチョに濡れていた。何度も中に射精されて、精液が溢れ出て、双丘を伝って流れ落ちていた。シーツは、二人の精液で大きな染みが出来ている。それでもSEXをやめなかった。
 果てて、ぐったりと横たわり、東城がペニスを引きぬいても、二人はむさぼる様に唇を求め合った。芳也の腕が東城を求めて、その首に回される。東城も芳也の体を抱きしめていた。
 こんなに激しく長く求め合ったのは初めてだ。どちらも、どちらからともなく、求め合うのは初めてだ。それは今までのSEXとはまったく違う物だった。何の駆け引きも無く、何の思惑も無く、ただただ快楽を貪り会い、互いを求めて愛し合うSEX。
「貴司……貴司……」
 芳也は、喘ぎ声の中から、無心で東城の名を呼んでいた。まるでうわ言の様に、その名を呼んだ。その名を呼んで、すがりつくようにその首に抱きつき、何度も唇を合わせる。もう理性も羞恥も何も無い。ただそこにある求めるべき人を求める。
「芳也……愛してる」
 遠くなりそうになる意識が、その言葉を聞いた。
「貴司……」
「愛してる」
 もう1度囁く。その低い甘い声が囁く。芳也は大きく目を見開いて、すぐ目の前にある東城の顔をみつめた。汗の光るその顔は、あいかわらず端整で、誰もが惚れ惚れとするような男前だ。優しい眼差しで見つめ返された。
「貴司……」
「愛してる」
 東城は、芳也をみつめたままもう1度言った。芳也はしばらくジッと見つめ返して、やがて震える唇が、答えを紡いだ。
「オレも………オレも貴方を……愛してる」
 搾り出すような擦れた声で、芳也がようやくそう答えると、東城は愛しそうにその体を抱き、唇を重ねた。


 窓を大きく開けて、快晴の青空を眩しそうに見上げた。大きく深呼吸をしてから、セーターの袖を捲り上げると、まだ真新しい雑巾を手にして、洗剤を窓にスプレーで振りかけた。キュッキュッと音が鳴るくらいに磨き上げる。
「兄貴!! ゴミはあるか?」
 呼ばれて窓の下を見ると、庭でゴミ袋を抱えた智也が、こちらを仰ぎ見ていた。
「ああ、あるある……こっからゴミ箱を投げようか?」
「バカ! 散らばったら、またオレが庭を掃かなきゃならねえだろ!! 取りに行くよ!取りに!!」
 慌てて智也が言うのを聞きながら、芳也はアハハと笑った。年の瀬も年の瀬。今日は12月30日だ。藤崎家恒例の大掃除は、30日に行われる。
 ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえたと思ったら、階下から母親の怒鳴り声まで聞こえてきた。
「ドタドタと走らないの! 埃が舞うでしょ!!」
「は〜い、すみません、すみません」
 そんなやり取りを聞きながら、芳也はクスクスと笑って、窓磨きを続けた。いつもながら賑やかな風景。ただいつもと違うのは、もう一人弟の姿が無い事くらいだ。
「はいはい、ゴミの回収ですよ」
 智也は大きな袋を二つ抱えていた。
「燃えるゴミがそっち……そこにおいてある奴も捨ててくれ」
 芳也は、窓磨きをしながら、部屋の隅に綺麗に寄せてあるゴミの山を指した。智也は言われた通りに、それを袋に詰めていた。
「裕也はいつ帰って来るんだ?」
 芳也の問いに、智也は宙を仰いで、ちょっと考える素振りをしてから、ニヤリと笑った。
「さあ〜……帰らないんじゃない? 多分年末年始は、恋人と過ごすだろうぜ」
「ふうん」
 芳也は、特に怒る様子も驚く様子も無く、生返事をした。そんな芳也を横目に見ながら、智也は何か言いた気なのを我慢しつつ、ごみを回収していた。
「掃除が終わったら、寿司を取るって母さんが言ってたぞ」
 芳也がポツリとそう言うと、「やった!!」と智也はハリキリだした。
「では失礼しました」
 智也は、ゴミ袋を担いで、いそいそと部屋を出て行った。そして出て行き間際に、チラリと芳也を見る。
『なんだかなぁ〜』と思って、苦笑した。クリスマス辺りから、なんだか芳也が変わった気がする。気のせいではないと思う。落ち着いたと言うか……いやいや、元々芳也は落ち着いた性格ではあるのだが、そういう事ではなく、なんというか……なんとなく理由は解っているのだが、考えたくないと言うか……そう思って、隣りの自室に入って、ゴミ箱のゴミを袋に移した。電子音のメロディがどこからか聞こえてきて、「はい」という芳也の声が聞こえて、芳也の携帯だと気づいた。
 別に聞き耳を立てるつもりではないが、ついつい動きを止めてしまう。
『今、家か?』
 電話の相手は東城で、相変わらずの一方的な問いかけに、芳也は首を竦めながら「ああ」と返事をした。
『近くまで来ている。出てこないか』
「は? 出て来いって……いきなり言われても、いますぐは出かけられないよ……どっか行くのか?」
 またまた唐突な言葉に、芳也は思わず聞き返してしまった。
『お前の顔が見たくなった』
 思いがけない東城の言葉に、芳也は真っ赤になって絶句してしまった。東城は気にせずに更に言葉を続けた。
『お前、パスポートは持っているのか?』
「持っているけど……なんで?」
『ちょっとついでに持って来い』
「だからなんで」
『いいから、パスポートを持って出て来い、いつもの角に車を止めている』
「ちょ、ちょっとなんだよ! いきなり……」
『他には何もいらないから、パスポートだけ持って来い、すぐだ。いいな』
 東城はそれだけを言って電話を切ってしまった。芳也は、切れた電話をジッとみつめながら舌打ちをした。
「ったく……なんだってんだよ」
 芳也はブツブツと文句を言いながら、机の引き出しを開けてパスポートを捜した。まだ1回しか使ったことの無い綺麗なパスポートだ。これをどうしようというのだろう。手に持って、部屋を出た。
「あ、兄貴、どっか行くのか?」
「ちょっとそこまで言ってくる。多分、すぐ戻る」
 芳也は気まずそうに答えて、階下へと降りていった。智也には電話の相手は解っている。
「こりゃ、帰ってこないな」
 去り行く兄を見送って、智也は頭を掻きながら呟いた。
 芳也は本当にすぐ戻るつもりだったから、上着も持ってこなかった。捲り上げたセーターの袖を元に戻しながら、靴を履いて外へと飛び出した。少し走って、通りの角を曲がると、見なれたシルバーのベンツが止まっていた。
 芳也の姿を見て、ドアが開き東城が顔を出す。
「持ってきたか?」
「……」
 芳也はムッとしながらも、パスポートを差し出すと、東城は開いて中を確認していた。
「よし、問題無い……乗れ」
「は?」
「いいから早く乗れ」
 無理やり車に乗せられると、車はすぐに発進した。
「ちょ、ちょっとどこに行くんだよ! オレは大掃除の途中で……」
「気にするな」
「貴司!?」


 芳也は窓の外をぼんやりと眺めながら「あり得ない」とポツリと呟いた。
 いきなり東城に呼び出されて、攫われる様に連れ去られて、あれからもう2時間後には空の上にいた。芳也は東城に拉致されて、今、国際線のファーストクラスの座り心地の良い椅子に、身を委ねていた。行先はハワイ……だそうだ。
「どうした? シャンパンでも飲まないか?」
 随分ご機嫌な様子の東城に、芳也は背を向けて窓の外を眺めていた。
「あり得ない」
 また呟いた。
「何を怒っているんだ?」
「あのな! ちょっとそこまでお出かけ…って訳じゃないんだぞ!! いきなり身ひとつで連れ去って、年末年始をハワイで過ごそうって……そんなのあり得ないだろう!!」
「ああ、身の回りの事は気にするな。服でもなんでも向うで買えば良い……マウイにオレの別荘があるんだ。誰にも干渉されずにゆっくりできる」
「貴司!! 聞いてるのか!! こんな事一言の相談も無く……前もって言ってくれないと……」
「ギリギリまで行けるかどうか解らなかったんだ。決まったのは今朝でな。まあいきなりで悪かったとは思うが……そんなに怒らなくても良いだろう」
 東城はフフンと鼻で笑って、シャンパンを口にした。
 芳也は呆れて、もう怒る気にもなれなかった。東城のこの身勝手さは今に始まった事ではないはずだ。それにしてもこんな軽装で家を出て……家族になんと言い訳をしようか? そして誰がハワイにいるなんて信じてくれるだろうか? 芳也は深い溜息をついた。
「二人っきりで過ごせると言うのに……嫌なのか?」
「まったく……貴方って人は……」
 芳也はもう1度溜息をついてから、東城を睨みつける様に顔を近づけた。
「嫌な訳ないでしょ」
 芳也はクスリと笑ってそう言いながら唇を重ねた。


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