カリフォルニア・ドリーム

モドル | ススム | モクジ

  12  

 抱えていた氷上の両足を離すと、先端だけ入っていたペニスがスポッと抜けてしまった。司郎はベッドの上に正座して、小さな溜息をつくと、また小さく「すみません」と言った。
「し……司郎、なんでやめるのさ」
 氷上が慌てて体を起こした。情けない顔でこちらを見つめている司郎は、その大きな体を小さくして、チョコンと座っている。ペニスはすっかり萎えていた。
「司郎?」
「恥かしいです……2回も出しちゃって……やっぱりオレ童貞だからヘタで……早漏って言われても仕方ないです……」
 完全に自信を失って項垂れる司郎の様子に、氷上は驚いたように眉を少し寄せた。おもむろに司郎の股間に顔を埋めると、すっかり萎えてへろんと力なく垂れているペニスを手に取ると、口に咥え込んだ。
「なっ……ひ……氷上さんっっ!」
 司郎は驚いて、腰を浮かせて離れようとしたが、氷上はペニスをしっかりと手に持って、深く口に咥え込むと、ジュジュッと淫猥な音を立てながら、吸い上げていた。
「んっ……ひ……氷上さん……そんな……やめてください……」
 司郎はその初めて味わう快感に、顔を上気させて歪めながらも、必死に氷上の肩を掴んで離そうとした。力で無理矢理引き離されて、氷上が顔を上げた。口の端が唾液で濡れて、官能的な顔をした氷上が、司郎をジッと見上げる。
「やめないよ……まだ大丈夫だよ……ほら、すぐに勃つよ」
「氷上さん……オレ……きっとまたダメだから……」
「ほら、お前がそんなだからやるんだよ!!このままだとお前、これがトラウマになって、インポになっちゃうぞ!?」
「氷上さん……」
「オレをここまでその気にさせて、終れる訳無いだろう? ちゃんと最後までやろう。お前、まだまだ出来るはずだろ?」
 氷上はそこまでキッパリとした口調で言い切ってから、再びペニスを咥えた。頭を上下させて、ペニスを深く浅く扱くように口で吸うと、司郎は「ああ……」と声を漏らした。司郎のペニスはみるみる硬さを取り戻した。あっという間に、すっかり臨戦体勢に戻ったペニスに、氷上は口を離して顔を上げると、満足そうにみつめた。司郎は興奮して、顔を上気させ息を荒げて氷上をみつめた。氷上は微笑みながら体を起こすと、司郎の胸をゆっくりと押して仰向けに寝かせながら、その体を跨いで、雄々しくそそり立つ昂ぶりに手を添えながら、その上にゆっくりと腰を落した。
「氷上さん……」
「シィーッ……んっ……ふ……ん」
 氷上は右手を伸ばして、司郎の口を塞ぐような仕草をしながら、ゆっくりと息を吐いて、その中心に昂ぶりを受け入れた。狭く熱い内部に、昂ぶりが埋って行く。最初に入口の肉が引き込まれるように絡みついて、抵抗をしながらもやんわりと絞めつけるように昂ぶりを受け入れる。司郎の足の付け根に、氷上の双丘がペタリとくつっいて、昂ぶりが全てその内に入った事を司郎も感じた。
『熱い……』
 氷上の内の熱さに、司郎は目眩を覚えた。ギュウギュウと内壁が伸縮して、昂ぶりを締め上げる。こんな快感は初めてだった。
「熱い……」
 そう呟いたのは、氷上だった。ハッと我に返って目を開けると、上を仰いで、艶かしい表情のまま、腰を揺らす氷上の姿があった。白い肢体が、うっすらと紅に染まり、腰を揺らしながら甘い吐息を漏らしている。
 司郎は氷上の腰を両手で掴むと、足に力を入れて腰を上へと突き上げた。
「あああっ……はあっ……あっあっ……」
 グイッと腰を突き上げるたびに、氷上が声を上げて背を反らした。氷上はすがる様に、腰を掴む司郎の腕を掴んだ。腰を突き上げて、氷上の体を揺さぶると、その律動に合わせて、甘い声が漏れる。司郎は夢中で腰を動かしていた。こんな快楽は知らない。気持ち良過ぎて、頭が変になりそうだった。
「あ……あ……あ……ん……司郎……司郎……」
「オレ……また……うっ……くうっ」
 司郎が大きく腰を跳ね上げて、ビクビクと内腿を痙攣させながら、氷上の中に射精した。それを受けて、氷上も一緒に射精していた。
「あああ……んん―――っっ」
 ビュビュッと氷上のペニスから、白い精が吐き出されて、司郎の腹から胸までを濡らした。ギュギュゥッと千切られそうなくらいに、氷上のアナルが締めつけてくる。司郎が射精して、腰をガクガクと揺すりながら、氷上に締めつけられて呻き声を漏らした。まだ快感は続く。
「あ……ああ……司郎……すごい……まだ……ああ……」
 射精したはずの司郎の昂ぶりは、その硬さも質量もそのままに、氷上の中を貫いていた。司郎の腰が揺れて、氷上の快感のツボを刺激する。
 氷上は体を支えていられずに、そのまま後ろに倒れそうになった。司郎はその腕を掴んで支えると、体を起こしてそのまま氷上を仰向けに横たえると、上に覆い被さった。繋がったまま腰をゆさゆさと揺らして、氷上の首筋に吸いつく。首の付け根を強く吸い上げると、甘い声が上がる。むさぼるように夢中で氷上の白い肌を唇で愛撫しながら、氷上の両足の膝の裏に手を入れて、足を大きく持ち上げると、膝が腹に付くくらいに押し上げて、足を開かせた。大きく腰を前後に動かして、ピストン運動を激しく行った。司郎の赤く怒張した昂ぶりが、氷上のアナルを出入りする。1度中に吐き出した精液が、抽送を繰り返すたびに、結合部分から溢れ出して、グチュグチュと湿った音を鳴らした。
「あ……あっ……あっ……んんっ……んんっ……ああ……」
 激しく突き上げられて、深く貫かれる度に、氷上は声を上げた。ギュウッとシーツを強く掴んで、こみ上げてくる快楽の波に、意識が飛びそうになるのを堪える。
「司郎……ああ……ああ……また……また来る……んんん―――っっ」
 背を弓なりに反らせると、氷上は再び射精した。ビクンビクンとペニスが痙攣して、何度か白い精液を吐き出したが、司郎の激しい攻めは止まらず、突き上げられるたびに、氷上のペニスが跳ね上がって、搾り出されるようにトロトロと白い精液の混じった蜜が溢れ出た。
「司郎……司郎……そんなに……そんなにしたら……壊れちゃうよ……ああっ……司郎…」
 司郎の欲望は止まらなかった。関を切ったように夢中でその昂ぶりをぶつけていた。どんなに腰を揺さぶり、熱を注ぎ込もうとも、その昂ぶりはなかなか治まらなかった。氷上の中はとても熱く気持ち良く、司郎のすべてを飲み込んでくる。ねっとりと絡みつき締めつけてくる内壁は、昂ぶりを更に誘った。まるで長い射精感が続いているようだった。どんなに精を吐き出しても治まりそうに無かった。もっともっとと腰を動かして、氷上の中を攻め立てていた。夢中だった。
「ううっ……ああっ……」
 司郎はブルリと体を震わせて、氷上の中に熱い精を吐き出す。もう中は司郎の精液でいっぱいで、隙間からドプッと溢れ出てしまっていた。再び抽送を始めると、更に隙間からドロドロと精液が溢れ出る。もう何度射精したか解らなかった。それは氷上も同じで、胸も腹も腰も、吐き出した精液で汚れていた。
 司郎が腰を動かすと、ビクリと体が跳ねるが、その顔は恍惚としていて、もう意識を手放していた。ただ律動に合わせて、喘ぎが漏れる。
 やがて最後の射精をしてから、司郎は氷上の体を離して、倒れるように深い眠りに落ちた。


 気がついたのは、鼻をキツク捻られて、ボカンと頭を殴られてからだ。
「イテェッッ!!」
 叫んで目を開けると、そこには司郎を覗き込む氷上の顔があった。
「ひ……氷上さん……」
「この……性欲大魔神が!!」
 氷上はそう言って、もう1度ボカッと頭を殴ってきた。
「イテッ……氷上さん?」
 司郎が慌てて体を起こすと、氷上は横になったままで、横向きに右肘をついて、上体だけ少し起している格好だった。
「ったく……限度を考えろっての!!! お前の所為で、オレは腰が立たなくなっちゃったじゃないか……あんまりしつこいから、途中で気を失ったよ……死ぬかと思った」
「す……すみません…」
「……死ぬかと思うくらい良かったよ」
 氷上はそういうと、微笑んでから司郎の首に手を伸ばすと引き寄せてキスをした。
「司郎……サイコーのセックスだったよ」
 唇を離して、氷上が甘く囁いたので、司郎は氷上の体を抱きしめて唇を重ねた。


 にこやかに笑顔を振り撒きながらオフィスを後にして、氷上はのんびりとした足取りで廊下を歩いた。時折すれ違う顔見知りと、他愛もない挨拶を交わす。外に出ると真っ直ぐ駐車場へと向かった。愛車の真っ赤なジャガーの前まで来ると、ゴソゴソとジーンズのポケットに手を突っ込んで鍵を探した。
「ハイ! 彼女、ひとり?」
 ふいに後ろから抱きしめられて、氷上はギョッとなった。しかし車のウィンドウに映る相手の顔を見て、クスリと笑った。
「エディ! ……まったく……誰かと思うじゃないか」
「ハイ! ハニー」
 背の高い金髪の男が、氷上の頬にキスをしながら彼を振り向かせてニッコリと笑った。
「久しぶり……元気だった?」
「ああ、うんざりするくらいに元気だよ……シンゴもますます活躍しているようじゃないか……色々と噂には聞いているよ」
「どんな噂だか」
 氷上は笑いながら肩を竦めてみせた。
「もう帰るのかい?」
「うん、ギャランティの支払い契約書にサインしに来ただけだから……しばらくはまたフリーだよ」
「久しぶりに会えたんだから、コーヒーの一杯ぐらい付き合ってくれてもいいだろ?それとも急いで帰らないと待っている人でもいるのかい?」
 エディの問いかけに、氷上は少し考えるように腕組みをして首を傾げた。
「いいよ……コーヒーぐらいの時間なら」
 氷上の言葉に、エディはニッコリと笑って、氷上の肩を抱きながらスタジオの建物の中へと戻って行った。
 1階にある広い喫茶ルームへと来ると、コーヒーを買ってから、窓際のテーブルへと向かい合って座った。
「君の方こそ、随分忙しそうじゃないか……ひっぱりだこだって聞いたよ」
 椅子に座りながら、氷上がにこやかに言ったので、エディはアハハと軽く笑った。
「忙しいだけで、君みたいにギャラが高いわけじゃないからね、火薬屋なんてそんなもんさ」
「またまた」
 氷上はクスクスと笑いながら、コーヒーをすすった。それを微笑みながらエディがみつめる。
「うまくいっているみたいじゃないか」
「え?」
 ふいの言葉にその意図が解らなくて、氷上は首を傾げた。
「恋人……出来たんだろ?」
「誰が!?」
「誤魔化すなよ……かつては愛し合った仲だって言うのにつれないなぁ〜」
 エディはそう言って笑いながら右手を伸ばしてくると、氷上の手を握って撫でる。氷上はその行為を特に拒絶はしなかったが、小さく溜息をついた。
「人が聞いたら誤解をまねくような言い方はよせよ、君とは2回寝ただけだし、それも3年も前の話だろ? 大昔の話だ……オレ達は今も昔もいい友人だと思っているよ……違う?」
「あいかわらずつれないなぁ……」
「さっさと結婚した人がよく言うよ」
 氷上は呆れ顔で溜息をまたつくと、コーヒーをまたすすった。
「なに? オレが結婚したから怒っているのか?」
「エディ」
 調子に乗った風に絡むエディを咎めるように氷上は名前を呼んだ。すると彼はアハハハと大きく笑って握っていた手を引っ込めると、コーヒーを一口二口飲み始める。その様子を、氷上は少し眉を寄せてみつめる。
 エディ……エドワード・ギィッシュは、爆破を専門とする特殊効果マンだ。氷上よりも3歳年上だが、このスタジオに入った頃からの友人だ。彼はハンサムだし、明るくて調子が良いので、誰からも好かれている。男女の区別無くモテている上、彼自身もプレイボーイだ。氷上とはなんでも話し合える良き友人ではあったが、かつて興味本意で体を重ねた事がある。氷上にとっては初めての男ではなかったし、特別な感情がある訳ではなかった。それはエディ自身もそうで、だからその後も友人関係を続けているし、なにより2年前にエディは身を固めてしまった。
 それ以来、二人の関係は疎遠になってしまったが、それは彼が結婚した事と互いに仕事が忙しくなった為、時間を共有できなくなったというのが理由だと思っている。氷上には何も思う所はなかった。
 こうしてゆっくりと二人で話をするのは久しぶりだが、でもエディがこんな風に意味深な絡み方をしてくるのも変な事だと思う。
「君に特定の恋人が、とうとう出来たんだって、もっぱらの評判になっていたからさ……オレは信じられなくて、1度話を聞きたくなったって訳さ」
「なに? それで待ち伏せしていたのか?」
「いやいや……今日は本当に偶然さ」
 彼は笑って肩を竦めて見せた。それを訝しげな顔で氷上がみつめる。
「まったく……そんなくだらない噂……どっから出たんだか……」
「年下のかわいい日本人の男を、朝から晩まで連れまわしているって聞いたけど、それも噂なのかい?」
 それを聞いて氷上は「ああ」と言うとクスリと笑った。
「彼はオレの助手だよ……別にそんなんじゃ……」
「助手!?」
 言いかけて、エディが大きな声をあげたので、氷上は驚いて言葉を止めた。
「助手だって?」
「そうだよ……助手だよ」
「おいおい……一匹狼で有名な君が助手を連れて歩けば、そりゃあ噂になって当然だろ?オレとだってパートナーにならになかったくせに」
「君とは職種が違うだろ? ……別にオレが助手を取るくらいいいじゃないか」
「一緒に住んでいるんだろ?」
 ズバリと言われて氷上は言葉を失った。探偵並に、エディは情報を知っているらしい。それがどこから手に入れた情報なのかとか、勘ぐるのも面倒なので氷上は大きく溜息をついた。ヘタに騒がれるよりは、ハッキリと自分の口から言った方が良い。エディは嫌いじゃない。友としては本当に良い奴だ。昔は多少彼に振りまわされる事もあったけれど、今の氷上は、もう彼と対等に付き合える自信があった。
 彼が結婚した事を怒っているというのは、実は正解だ。別に嫉妬してとかそういう事ではない。エディは自分と同じ価値観を持つ者だと信じていた。恋愛はゲーム。永遠の愛を誓い合うなんてナンセンス。今が幸せならそれで良い。そう互いに話し合っていた友だった。互いに若かったのだと思う。それなのに、エディは結婚してしまった。それも結婚の事も相手の事も、氷上には何の相談もなかったのだ。それが腹立たしかったのだ。
 でも今は不思議と、もう怒りも無かった。エディにこんな風に絡まれてもなんとも思わなかった。少し前の氷上ならば、エディがまだ自分に対して未練があるのだろうかと思ったかもしれない。そして結婚を後悔しているのかもしれないと思ったかもしれない。だが、今はそんな風には思わなかった。
「エディ……確かに、オレは司郎という助手がいるし、彼と一緒に住んでいるし、彼とSEXもした。彼はオレの事が好きで、恋人になりたがっているけど、オレがどうしてもそれを受け入れられずに居るんだ」
 氷上が真面目な顔でそう話したので、エディも真面目な顔になってカップをテーブルの上に置いた。
「君は彼の事が好きなんだろ?」
 エディは真面目な口調で聞き返してきた。
「好きだよ……でも恋愛かどうかは解らない」
 穏やかに答えた。そうだ解らない。司郎への感情がなんなのか、自分が1番解らなかった。なにより抱いて欲しいと願ったのは氷上の方だったからだ。強く求められて、激しく抱かれて、それを嬉しいと思ったのは嘘ではない。でもその後に残った喪失感がなんだたのかも、今は解らなかった。
「彼とSEXしなければ良かったと今はちょっと後悔しているんだ」
 ポツリと氷上はつぶやいた。エディは真顔でそれを受けとめてしばらく考えた。
「なぜ?」
「……解らないけど……何かを無くした気がするんだ……SEXの後、ひどく喪失感に襲われてしまって……後悔した」
「彼とのSEXがよくなかったの?」
 深刻な雰囲気を、打ち消そうとしたのか、エディが少しだけ笑いながら言ったので、氷上は首を振った。唇を噛んで、何度も首を振ってから、悲痛な顔を上げてエディをみつめた。
「司郎がひどく後悔した顔をしていたんだ……オレを抱いた後……それっきり……あれからもう1週間にもなるのに、彼は1度もオレに触れようとしないんだ……こんなことなら……彼とSEXしなきゃ良かった……」
「シンゴ」
 両手で顔を覆って肩を落す氷上に、エディは手を伸ばしてその腕を擦った。
「愛しているんだね」
「解らないよ……」
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